コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 猿の惑星(1968/米)

架空の設定に過剰なリアリズムを求めたって仕方がないんじゃないでしょうか?むしろ、寓話としての性格を認識し、問題提起の先鋭さを考えたら、非の打ち所が無いように思え、正しいSFの見方ができた時代への憧憬さえ覚えます。
kiona

 猿達が英語を話すという初期設定の破綻に対する疑問をぐっとこらえねば、この映画の魅力は全て失われてしまいます。

 この映画の猿人達は、リアリズムの猿じゃありません。人類という実像が鏡に映された虚像です。そして、この物語は、そのことをテイラー(チャールトン・へストン)が自覚するまでを描いた“寓話”なんだと思います。

 「赤頭巾」に出てくる狼が人間の言葉を話せることに突っ込みをいれたって仕方が無い。それと同質の良識を観る側が失ってしまっては、今後、これほど革命的なSF作品が登場してくることは、望めないように思います。(いや、もちろん、突っ込みを入れる楽しみを否定するものではありません。ただ、リアリズムからのみ一刀両断するのは間違いであると言っておるのであり、そういう風潮がむしろごくごく一般的な観客の間に蔓延しつつある状況に危惧を覚えるのです。)

 むしろ、個人的には、スタジオ内に捏造した異空間ではなく、“地球上”におけるロケに徹しながら堂々と別の惑星であるかのように観客を騙そうとした前半の撮影は、当時の映画界の力量の表れなのだと思いました。

 ところで、実像が消え虚像だけが残った世界に降り立った男は、しかし、実像の負の遺産をまるごと継承したかのような野蛮さと傲慢さに満ちていました。

 「バカ野郎!やりやがったな!!」

 でも、だからこそ、聖人君子ではなかったからこそ、最後の彼の叫びは自らの体内、血液、遺伝子に向けられた叫びとして痛烈に響きます。俺は、このテイラーが大好きです。彼のキャラクターに、人類の負を痛烈に描いたこの作品の、人間への逆説的な愛情を感じるからです。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (19 人)たかひこ[*] 緑雨[*] けにろん[*] movableinferno[*] ジェリー[*] Pino☆[*] Ribot[*] シーチキン[*] ina ジョー・チップ ペンクロフ[*] さいた[*] KADAGIO[*] アルシュ[*] ジャイアント白田[*] 水那岐[*] peacefullife[*] かける[*] ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。