今コメントにすごく最低なことを書いた。「こんな映画を褒めるやつはわかっていない」であるとか、あるいは逆に「この映画を観ずして映画を語るな」であるといった類の言説が白痴以外の何だと言うのか。おまえ、映画全部見たんかと。つうか、おまえどんだけ偉いんやと。俺に関して言えば、映画好きを自称することさえおこがましく、だって、いい年して、やれ『ビオランテ』だ、やれ『大怪獣総攻撃』だ、やれ『東京Ｓ・Ｏ・Ｓ』だと大はしゃぎしているんだから、とてもとてもそんな大それたことを言えた身分ではない。

　しかし一方で、この『Ｄｅｅｐ　Ｌｏｖｅ　劇場版　アユの物語映画』のような映画を目にすると、こういうメディアを、否、こういうメディアに惚けている連中を踏み潰さねばならないのではあるまいか？　という不遜、傲慢以外の何ものでもない使命感が沸々と湧いて、吐くべきでない毒をついつい吐いてしまう。ただし、撃つからには撃つ映画同様自分も傷つく覚悟で撃つ。無傷で斬ろうなんて虫のいいことは考えない。何故なら俺にとって『宇宙大戦争』だの、『妖星ゴラス』だのはそこまでの映画だからだ。

　で、連中はどうなんだ？　この話、本気で守れるのか？　俺はトーシロなので、映像にも役者にも何も言わぬ。映像も役者もそーとーおもろいことになっていたと思うが言わぬ。素人目にちっとは語れるのは、脚本というか物語に関してぐらいのものだ。

　アユを通して見る世界は恐ろしく狭く偏っている。一見受難と不幸に満ち溢れ、リアルな生活に見えるが、全部予定調和だ、しかも最悪に出来が悪い。アユが自らの在り方、生き方を否定されることなく、ヒロイックに散っていくまでに必要なモノだけが都合良く――都合良くというか、ぜんぜん都合もついていないのだが、とにかくそれらが摩訶不思議な文脈でたらたら羅列されていくだけ。

　まず気にかかるのは、作家は意識してかしないでか援助交際や売春に染まってしまう少女たち、あるいはホストの道に入っていく少年など、何というかこういう若い子たちのスタンスと価値観を否定することはおろか、問うそぶりさえ見せない点だ。彼らの擦れた体裁だけを描きながら、核心、彼女が何でそうなったのかだとか、彼女はどう育ったのかだとか、彼女の親はどうしただとか面倒な問題には一切触れない。

　これは作家が意識しているしていないに関わらず、購買層には口当たりがいい。そんなもん嘘っぱちに決まっているのだが、とにかく「この、汚い大人たちが腐らせたセカイ」を「孤独な被害者の視点」で見せるためのフィルターとして「アユ」を呑み込ませてしまえば、それが共通幻想となり、こんなインチキめいたセカイでもウェルカム・トゥ・リアルなんだ。

　目を覚ませよ。こんなリアルはありえない。アヴァロンの中にいるんじゃないんだ。血も吐かない、涎さえ垂らさない、出来損ないのＣＧみたいな姉ちゃんが不自然にキモイ中年に随分と紳士的に撫でられただけで、次のカットではピンサツ数えている。役者のアイドル生命云々なんてのは言い訳だ。だったら演出で汚れを表現して見せろ。どんだけ汚れたんだ？　どんだけ汚れたものを、彼の素晴らしすぎる詩に癒してもらったんだ？　それで彼を助けるためにまたどんだけ汚れるんだ？　もっと果てしなくボロボロだろう！

　ヒロインの被害者的立ち位置による何ちゃってニヒリズムの捻出と援助交際をめぐる問いと責任の回避、ステレオタイプな不感症と表裏たる有り得ないほど極端な内面のイノセンス、さらにはエイズの安直な持ち出しによるヒロイズムの捏造、中身を欠いた従順と献身が過剰に責められることにより醜悪なナルシズムに化ける瞬間、そして冒涜にも近しい特攻隊ネタの使い捨て。仮にただのロマンスとして分を弁えていたなら、まだ救いがあったろう。だが、最後に目を疑うあのテロップ――

　喰らえ、俺の３８スペシャル。