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[コメント] ハウルの動く城(2004/日)

思想的に賛否が別れる映画は撮っても、つまらない映画だけは絶対に撮らない人だと信じていたが、この映画はつまらない、びびってたじろぐほどつまらない。『風の谷のナウシカ』がガチなら『ハウルの動く城』は飛んだ八百試合だ。魔法はもういらん。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







カリオストロの城』は面白い映画だった。クラリスには地位という囚われる理由があったし、しかもそれは本人が望んだものではなかった。そうなると、あんな下衆野郎の嫁にならにゃならんことが不憫で、助け出してやりたいと思う筈で、だから、ルパンの活躍に手に汗握る。ソフィーは婆さんにされるが、その理由はオバハンの嫉妬という大変ちんけなもので、まあ、ちんけならちんけで良いんだが、しかしソフィーは婆さんにされちまったことを大して悩まず、まあ悩まんなら悩まんでいいんだが、それでは少女に戻ることが物語の目的とならず、おまけにオバハンも敵とはならず、案の定誰の切実なモチーフもアクションも絡まないまま、その間恋人はこの「少女が婆さんになった」問題とはほぼ無関係なところで頓珍漢な活躍をするばかりと思っていたら、「もういいだろ?」とでも言わんばかりに何の脈絡もなく或いはCGの如く安易に少女に戻っている。まあ、それならそれでって……ありえねえ!こんな支離滅裂な脚本、深夜枠のテレビドラマだって通らんですよ!

風の谷のナウシカ』は面白い映画だった。戦争が起きていた。どことどこが戦争をやっているのか、どういった人々が戦火に巻き込まれたのか、誰が誰とどういう理由で憎しみ合い、傷つけ合い、殺し合うのかが痛いほど伝わってきた。そして、人が死んでいった。人だけでなく、あらゆる命が死んでいった。だからこそ、ナウシカの想いと行動に胸が張り裂けた。ハウルはどこの何と戦っていたのだろう?いったい誰と誰が憎しみ合い、傷つけ合い、殺し合っていたのだろう?誰がどこで死んでいったというのだろう?ソフィーの半径にいる人さえまともに描かれない。端的に言って、ソフィーの家族の描写の投げやりさ加減には開いた口が塞がらなかった。或いは、ペラいキャラ同志のペラいロマンスがたまげるほど無神経に戦争という設定を反故にし、ハウルの大罪を赦免する。これが宮崎駿が批判し続けてきたご都合主義の典型でなくて何だというのだ?そもそも、この人が、下手くそなストーリーテーリングにてんてこ舞いになった挙げ句、キャラを立てられず、そのモチーフをべらべら台詞にして言わせてしまうなんて素人な真似するとは思わなかった。

千と千尋の神隠し』は面白い映画だった。ファンタジーと現実の切り分けがちゃんと成されていた。そこでは魔法が使える。何でもありだ。だが、馬鹿馬鹿しくはなかった。何でも起きる一方で、ファンタスティックな設定が適切に時事のメタファーになっていた。湯屋の面々は皆負の側面を持つ現実的な人々だった。社会が排泄する汚いものを真摯に描いており、浄も不浄も正も不正も混沌の中に呑み込んでいく不思議な包容力で、少女の生を輝かせ、その果てに列車に乗せると、列車が向かう先に大いなる死を想起させた。物語はどこか破綻していたかも知れない。それでも、作家が描きたい想念は明確に伝わってきた。それでこそ魔法は魔法だ。今回の魔法は良くできた見せ物に過ぎない。ルールもなければ、物語も綴らない。ありえない展開の言い訳として存在するだけ。空中散歩?シーン単位で評価できるだけだ。或いは、あの城の寒々しさは何だろうか?他人を許容しない巨大な空間。もう、『千と千尋』が包容していたような下らない人々などうんざりで、理解し合える人間だけで煩わしさから逃げて逃げて暮らそうと言うのか。彼らがドコデモドアで落ち延びている間、魔法を使えない人々は空襲でおっ死にまくっていた。だが、そんなことより茶髪をやめさせることの方が重要らしい。内部は外見よりも遙かに歪だ。

髪と言えば、ラストシーン、少女は髪の毛だけ元に戻らなかった。『もののけ姫』でアシタカの手の痣が消えきらなかったシーンの焼き回しである。こんな風にこの映画には、蛭的な怨念の描写だとか、我修院達也の使い方だとか、婆の醜さのディフォルメ描写だとか、過去の焼き回しで溢れている。中には、興味深いものもある。だが、このラストは酷い。テーマを言葉にすれば、少女が精神的成長の代償に若い髪を失っただとか、そんなようなことになろうが、しかし、あの白い髪を見て誰が「白髪」と見えたろうか?コンテの色が変わったようにしか見えない。そこには若さも老いも等しく感じられない。そう、この映画は恐ろしく色に魅力がない。このシーンがその意味を教えてくれている。この映画には、漲る生気や死の予感、そういった瑞々しい何かが何一つ見えないのだ。

(評価:★1)

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