[コメント] 一番美しく(1944/日)
朴訥で純朴、黒澤監督らしい、いかにも不器用な作品だ。
あれだけたくさんの女性が出ていて、“女”が描かれているわけでもなし。或いは、反戦と言っていいほどの確固たる姿勢があるわけでもなし。そこに確かにあったと言えるほど確かなものは、教条、説教、ただそれだけである。少なからぬ人達が言うように、黒澤監督は映画で説教を垂れたがる人なのだ。そのぐらい、俺にも解る。でも…
それのどこが悪いのかは、さっぱり解らない。
モラル・ハザードなんて言葉が叫ばれて久しい昨今、昨日もニュースで、警察によるいっせい補導のニュースが流れていた。親が教育責任を放棄した挙げ句、三歳のままでかくなったガキどもが街に氾濫している。大人が説教を出来なくなった国の顛末だ。
人間、幾つになっても、説教垂れてくれる誰かが必要だと、俺は思う。でも、ガキだった頃の自分を思い出すに、自分の親でもないのに、真剣にその言葉に耳を傾けようって気になった大人がどれほどいただろうか?
有名人を考えるなら、自分の場合、黒澤監督ぐらいしか思い浮かばない。説教を聞いてもいいと思えるような日本人は、黒澤明ぐらいしか思い浮かばない。
親に放棄された彼らを片っ端から捕まえてきて、椅子に手足を縛り付け、『時計仕掛けのオレンジ』状態で、この映画を五百回ぐらい垂れ流してやりたい。ついでに、俺もそうされたい。
でも、目薬は必要ない。正直言って、ラストは涙でぐしょぐしょのけちょんけちょんになった。どんな境遇、どんな思想の支配下にあれ、賢明に自分の仕事を全うしようとする人間は、美しく、そして悲しい…それだけです。
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