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[コメント] M:i:III(2006/米)

郷愁のアクション。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







底抜けサスペンスを都合のいいVFXでオブラートしたに過ぎない一作目。かつてのオーラが消えかけた巨匠と、アクションは素人に過ぎなかった主役の食いあわせの悪さが、ついに香港スタントに熱を産まなかった二作目。どっちも当時はアクション映画として邪道であり、半端であると感じられたものだ。『ダイ・ハード』(もちろん1のこと)はよう……! と、オヤジくさい(大してオヤジでもなかったくせに)くだをまいたものだ。

しかし、それももはや十年前。このディケイドに、アメリカの伝統的なアクションは香港スタイルとCGに食い荒らされた。どれを見ても、ブルーバックを背景にワイヤーアクションである。そして設定ときたら、中途半端にSFだったり、ファンタジーだったり、『ランボー』から始まった世代にとっては『ミッション:インポッシブル』でさえガチンコとは思えなかったのに、もはや八百長もクソもあったのものではない。それらを否定するわけでもないのだが、『ランボー』に始まり、『ターミネーター』が生まれ、『リーサル・ウエポン』があり、『ダイ・ハード』という金字塔が打ち立てられ、なお『クリフ・ハンガー』『スピード』『ザ・ロック』『エグゼクティブ・ディシジョン』とゴロゴロ生まれた八、九十年代が恋しい…恋しくてたまらないのである。

ただ、これらはもう語りつくされ、消費しつくされたジャンルなのかも知れない。

そんな時に『M:i:III』だ。いまさら古い、古いよ、トム! まず、そう思った。同時に、かつては八百長と罵ったそのシリーズ名が妙に懐かしく感じられた。八百長のはしりとさえ思えたシリーズ名がむしろオールドウェーブとして前景化してくる皮肉な隔世の感に苦笑いしつつ、一方で、それでもやるのか? やってくれるのか? と思った。

はっきり言って、お話は相変わらずお話になってない。脚本が面白いのは前半だけだ。特に冒頭は面白い。カウント1〜10まで全部面白い。時々刻々と化学変化する感情曲線が二人の演技派によって強烈に表現される。しかしその後は、どんでん返しは見え見えで、見え見えというより、どうひっくり返ろうがもうどうでもよくて、だってどうせひっくり返るんだから。あまつさえ珠玉の冒頭がフェイクだったなどといういらぬ副作用が展開をグダグダにし、あるいは上海のタワーのくだりのような開いた口が塞がらないオミットまでやらかす。入ったと思ったら飛び出してきやがって、中はどうした、中は。と言ってもこれ、実は仕方なくて、もうパート3ともなれば、イーサンの強化警備ぶち抜きという場面は、観客、見飽きちゃってるからオミットで正解なんだよな。それでも話としては突っ込みどころとなってしまう点にネタの時代遅れ感が集約されている――と言った具合に、肝心の物語にはさっぱりのれないんだが、

それでも、俺はこの映画見てよかった。というより、生まれて初めてトム・クルーズに、それもアクション俳優トム・クルーズに感動した。今このご時勢にこのテンションでこれをやるこの人のエネルギーは凄い、本当に凄い。そのエネルギーが爆発する上海の民家を疾走するシーンでは、不覚にも目頭が熱くなった。この人、何でこんな上海の民家なんか突っ走ってんだ? 笑いがこみ上げて、なんか愛しくなった。昔、スタローンたちがやってたこと、やってて今はやらなくなったこと、というよりやれなくなったことを、まだメジャーのど真ん中でやり続けようとしているんだ。生身のアクションが、素のアクションがただただ疾走する絵は本当に美しい。トム・クルーズ、あんた、男だ!

※蛇足

あと、シーモア・ホフマンもやっぱり良い。便所から出てきた彼は、イーサンにしか見えなかった。それって凄いことだ。変装直後のイーサンが便所の排気口に到達するまでのシークエンスはスタントマンかもしれないが、あれもホフマン本人だったら凄いよなあ。しかしこの映画、何よりド凄いと思ったのは、マギー・Qのドレス姿だ。いくらなんでもやりすぎです。でも、最高!

(評価:★3)

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