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[コメント] 時をかける少女(2006/日)

屈託なく突っ走り転げ回る少女の動きから感情が迸る。天にはどこまでも青空が広がっている。アニメだ! 青空が綺麗なアニメを久しく見ていなかった気がする。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 一番好きなシーンは、ブレーキの壊れたチャリをこぐコウスケとそのケツに乗る女の子が電車に突っ込むのを止めようとして突っ走りもんどりうって転げ回っては体中傷だらけ、顔中痣と血まみれになるマコトは大変最高で、少女がボロボロになるのが最高と言うのは別にこれ変態趣味というわけではあんまり無くて、では、何なのかと言うと、重力からの離脱こそアニメの醍醐味だとすれば、その離脱の快感は前提として重力がちゃんと描かれていることが大切で、重力から逃れ空を飛び回る少女がしかしながらいつか重力に追いつかれ地面に叩きつけられ、それでもなお空に向って叫ぶ瞬間、そこに夢と現実のヒリヒリとした境界が立ち現れ、見ている僕も彼女にシンクロして胸がキュキュンキュンと高鳴ると言うわけなのです。まあ、チャンチャンバラバラやって美少女が傷つき血塗れになる類のアニメなど深夜に佃煮にするほどやってるわけですが、傷や痛みが重力、物質、現実感にどれほど結びついているか言うとどれもが魔法一つで回復してしまいそうなものばかりでないのと言えば、またぞろアンさんどんだけ深夜アニメ見とるっちゅうのんとその筋とか玉の筋とか中の筋とかに言われてまいそうですが、他のアニメと比べるまでも無く、『時かけ』はその辺の重力バランス、タイムリープすなわち魔法でどうにかなるものならないものの切り分けが磐石と思いました。

 ただ、もうここからはまったくもって個人的欲求なんですが、「ああ、でも、これ、この顔のまま終るわけはさすがに無いんだよな…」と少し残念に思う自分も正直おり、まあ、シーンは事実として刻まれなくとも一つの“起こりえた現実”として刻まれたわけで、この後再度のタイムリープが起き、傷顔でなくなってしまうことは八百長でも何でも無いのですが、ただ、この後の展開、自分、少しひっかかりました。

 タイムリープというSF的現象を扱いながらも、その現象そのものを追うことはせず、現象は媒介で、話は青春もの・恋愛ものですよというスタンスを、製作者はここまで明確に打ち出して来たのに、ここに来ての「未来人が回収」は待ってくれよと思いました。聞けば、この落ち、原作を踏襲しているとのことですが、原作を知らない自分としては本当に青天の霹靂と思えたんです。いや、そうは言っても、別に監督は未来人を描きたいわけでも、宇宙人・超能力者を描きたいわけでもなく、高校生という自分の主体性だけで進路を決めるには若すぎる年頃に付き纏うどうしようもない別れの象徴として、彼の未来人という設定をうまく処理しているようにも取れなくはないんです。しかし、それでも、突然映画のジャンルが変わってしまった感は拭いきれませんでした。

 ただ、その理由は、別にあったのかもしれません。と言うのも、俺には同性であるチアキとコウスケの心情が理解に苦しむものだったからです。

 チアキに関しては、未来に帰ることも出来ないほど惚れてしまったマコトを差し置いて、どうして、ちょいとマコトに冷たくされたからって、ユリに振れるのかが解らない。簡単に他の子に気が行くような未来人に、本当に未来に帰る気があるのか、と。あまつさえ、保健室のシーンは、ズカズカと踏み込んでくるチアキがユリとの肉体関係さえ想起させ、ええ…?!って感じでした。まあ、これも、未来人という設定を抜きにして考えれば、リアルな思春期の描写と取れなくも無いんですが…。

 そして、コウスケ君については…なあ、ぶっちゃけお前だって、マコトが好きなんだろ?好きに決まってるよなあ??と小一時間問い詰めたくなるような、なんかつまんない紳士ぶりで、いや、好きと言ってもいいんですよ、言わなくてもいいんですよ、問題は「実は俺だってマコトが好きなんだよおぉ!」という焦がれる感覚が伝ってこなかったことです。

 あと、マコトに関しても、なんでコウスケに惚れる下級生の手伝いに躍起になるのか、解らなかった。

 要は、大変魅力的な三角関係の構図を用意したのに、なんかそれを使い切らなかった感じがしたのです。そこを突き詰めれば、この清涼感がたちどころに消えてしまう可能性は大きくあり、無論、細田氏はそれを百も承知で、確信的に未来人回収でぼやかしたんでしょうが、こってりの胃もたれはたくさんだからそれで良し、上手いよと思う反面、キャラクターと心中する気は端から無いのだろうなとも思われ、寂しい気もしたのでした。

 とはいえ、マコトは大変かわゆかったです。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)奈良鹿男[*] Orpheus アルシュ[*] 4分33秒[*] おーい粗茶[*] イリューダ[*] Myurakz[*]

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