失恋を描いた物語。その失恋の対象は、現実に存在した誰かかも知れないし、アニメを含めた虚構の中のそれかも知れないし、自分の妄想の中にのみ存在しえた理想像なのかも知れないが、恋の一種が自分の理想を対象に投影して浮かび上がらせるものだとしたら、実在したかどうかなどいっそ問題ではないのかもしれない。

　大人になれば振り返るだに恥ずかしい少年期の恋なんて、対象に思い描いた理想なんて、大抵の人は年月と共に自分の中で風化させていく。一方で捨てることができず、そこにこだわり続ける人もいる。「秒速５センチメートル」は少年期の恋が失われるということに破滅的なまでにこだわった作品だ。

　この作品では、作家の新海誠が前作や今作の一話「桜花抄」で多用し、頼ってきたモノローグを最後の最後で返上しているが、代わりにぶちかました山崎まさよしにも、あの目くるめくラッシュにも一切の迷いがなかったように感じられ、なお感動する。ここまで切実に歌い上げずにはいられないのか、と。

　聞きようによっては、拙い美辞麗句に聞こえるのかもしれない。実は前作まで、自分もそういうものに過ぎないと思っていた。ところがこの人は、そんな美辞麗句でなければ語れないと信じる何かを持っているのだ。

　二話目、自分は「コスモナウト」が好きだ。この作品の打ち上げシーンは、自分にとって『妖星ゴラス』の冒頭の打ち上げシーンと同義の最高のシーンだ。ロケットなんて大それた公の物を、個人（それも女性）にとっての景観として描いてしまう、ロケット級のセンチメンタリズム。澄田花苗の純情にいたたまれなくなる。傍にいるのに、心の中で絶叫しているのに、叫んでも叫んでも届かない。彼が彼女に夢見て佇む、あの絶界までは。