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[コメント] クローバーフィールド HAKAISHA(2008/米)

奇しくも十年越し、遅れてきたアメリカ版……
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







女神の頭がぶっ飛んでくる前後のくだりなど、怪獣好きとしては射精しちゃいそうなぐらい興奮した。とりあえずは満足な怪獣映画だ。

ドキュメンタリータッチというのはもちろん新しいのだが、実は多くの怪獣ファンが妄想していた手法ではなかろうか。俺も、自衛隊の広報のカメラマンがゴジラ撃退作戦を追いかけるリアルタイム進行の映画とかあったらいいのにと常々考えていた。ただ、こういう事を考えちゃうのは、いい年こいても怪獣映画を作品として割り切れない、怪獣を嘘として割り切れない、目の前を奴らが横切る光景を本気で夢見てしまう、ことさら重症な人たちであるはずで、だからこそ臨場感と実在感にこだわった挙句の手法と得心が行くと同時に、製作者へのいらぬ同士感までをも抱いてしまう次第なのである。同族じゃ〜!

そういった意味では、地下鉄に逃げ込むまでのくだりは本当に素晴らしく、その直前の米軍の応戦などオーガズムに達しちゃいそうなぐらい興奮した。巨大怪獣の存在感を現在の手法で問い直したという意味では、嗚呼これ、十年越しで遅れてやってきたアメリカ版GODZILLAなのかしらん、などと思いかけもし、溜飲が下がる想いもあった。

ただ、本当に怪獣好きというのは、大概に業が深くてねえ……こんな嬉しい作品でもあれこれあれこれ思うんだよなあ……

一見、人間ドラマなど無いかに見える脚本だが、これ、実にまとまりのある脚本で、話としてはポン・ジュノの『グエムル 漢江の怪物』なんかよりよほどスマートかつ焦点が合っている。

「仕事のために中途半端に彼女と別れ、その事を兄に咎められ、その兄が死んでしまったことで、彼女を助ける決意をする」

ドキュメンタリーを装いながら、実はシンプルかつ骨太なプロットが縦軸としてストーリーを支えているのだ。それはその主人公の想いを描くというより、あくまで場面を転がすためのプロットに過ぎないんだが、それなりに見られるものとなっている上、『グエムル 漢江の怪物』にあった作者のいらぬ思惑が無い。

ただ、それでもだ、地下鉄の後はちょっと不満がある。

まず、等身大のチビ達が出てきてしまうこと。これは実は逃げなのだ。というのは、怪獣はでかい。でかいが故に怪獣だ。ただ、話を作る上では、このでかいってのが非常にやっかいで、日本の怪獣映画が70年代以降衰退した理由の半分は、特撮技術が後景化したと同時に、この怪獣がでかすぎるって点にあった。この映画が証明しているように、リアリティーが無いってのは、実は解消できる問題で、じゃあ、でかいと何が問題かと言うと、話の上で怪獣にからむのがマシーンや軍隊に限定されてしまい、主人公のような一般人が絡めなくなってしまうのである。これは実は、怪獣映画、恒久普遍の大問題なのだ。

これに対し、たとえばエメリッヒは『GODZILLA』で一番安易かつ最悪の解決方法を使っていて、それがウジのように沸いた赤ん坊ジラ(ジラという呼称に、今や特撮界隈ではなっております)だったり、親ジラとタクシーの追っかけっこだったりしたわけだ。あるいは等身大を使いながらも上手い処理をしている例として『ガメラ2 レギオン襲来』なんかが挙げられるが、『クローバーフィールド』のチビ達は残念ながら『GODZILLA』のそれと同じく主人公達が絡める相手としての矮小化に過ぎず、描写としても百万回繰り返されている『エイリアン』の焼き回しに過ぎなかった。

そして、もう一点致命的なのは、主人公の意識、つまり観客視点が主人公のそれとともに彼女に収束していきながら、その分、怪獣から離れていってしまったことだ。

前半が何であれほど興奮するかと言えば、登場人物たちも我々も意識が完全に怪獣に向いているからだ。だから、足がちらっと見えただけで興奮する。「なんじゃアイツは〜?」と興奮する。それが、主人公が怪獣を認識してしまい、それはそれとして脇に置いて、彼女の救出に意識を集中した途端、怪獣の存在は単なる障害物に後景化していってしまう。こうなると映画自体もめくるめく普通の映画に堕していってしまうのである。

怪獣映画、もう一つの永久のテーマがここにある。人間ドラマを展開しながら、いかにその中心に怪獣を据え続けるかというテーマだ。そして、それを何とかするのは怪獣自体に他ならない。怪獣自体の魅力が、主人公たちの意識も観客の意識も映画が終わるまで吸引し続けるようなものでなければ、怪獣映画は傑作たりえないのだ。

ただ、俺はこの映画の観客の反応が非常に気になる。ただ、それは映画としてどうとか、手法としてどうとか、酔うとか、そういうことではなく、ほんの一瞬でも、今そこにいる何かとして怪獣を感じる瞬間があったかどうか、だ。あってくれたらいいなと思うのだ。

(評価:★4)

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