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[コメント] 愛を読むひと(2008/米=独)

忘れられないなら、ちゃんと抱いて生きていけよ。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 いや、男の逃げ腰にはリアリティを感じること大だったのだが、刑務所でハンナが男の施し=テープをあっさり享受したくだりには、違和感を禁じえなかった。

 ウィンスレットが今や稀有な女優魂のかたまりであることに異論はない。しかし、理不尽な判決と服役の業苦は、人間を、あるいは女の心を変えてあまりあるはずで、その歳月をウィンスレットの老けづくりが体現していたと言えるだろうか? 違和感はおぼえたのは、そこだ。ベッドで小僧の朗読を享受していたのと同じように、老いた彼女はテープをあっさり享受してしまった。そこに彼女の心の歳月の経過が見出せないことをどう解釈したらいいのだろう? なるほど服役の孤独は尋常じゃないはずで、すがったとしても無理はないのかもしれない。あるいは、彼女は、聖女のようなもので、判決も、服役も、運命も、坊やの弱さもすべて飲み込んでいるから、彼女のキャラクターは普遍=不変なのかもしれない。

 だが、一方で、彼女は自分の文盲を隠さずにいられなかったし、そこかしこに男への期待を見せていた。面会には訪れてほしかっただろうし、手紙への返事=彼自身の言葉を欲していた。あるいは、出所にあたっての面会ではしゃばに放たれる自分を男が受け止めてくれることを期待していたように見えたし、期待したからこそ男が少年だったころのようには自分を受け止めてくれないことを悟って自殺してしまったのではないのか?

 つまりは、聖女ではない、人間的な弱さを持った普通の女だ。そういった女性が、理不尽な判決と服役の業苦のなかにあって何も変わらないというのは、どうもキャラクターとして破綻しているように思える。むしろ、そこには、外のぬるま湯につかり傍観している男と自由世界のスケープ・ゴートにされた地獄に生きる女の、世界と人生に対する見識の圧倒的な隔たりをこそ見出すべきではなかったか。

 まして、別れた妻とのあいだの娘に自分が本当に恋していた女とのロマンスを語って聞かせるなど、父親としての見識をうたがう。

 世界のせいにしたくなるのも今やわかるのだが、それでも、忘れられないなら、ちゃんと抱いて生きていこうぜ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)じゃくりーぬ サイモン64[*] けにろん[*] 煽尼采[*]

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