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[コメント] インセプション(2010/米)

言ってみれば、満ち足りた夢落ちと言うか、体感するストックホルム症候群と言うか――
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







夢落ちと書いても、この映画にかぎってはネタばれにならないことをご理解いただけると思う。

私は夢と言うか、空想を現実と等しく大切に思って生きている痛い大人なので、夢、もっと言えば「胡蝶の夢」をテーマにしているか、その片鱗をそこはかとなく散りばめている映画が好きだ。

たとえば『マルホランド・ドライブ』であったり、『めまい』であったり、『12モンキーズ』であったり、『ルル・オン・ザ・ブリッジ』であったり、『TAKESHIS’』であったり、押井守であったり、『マトリックス』に忸怩たる思いを抱いたり。

とりわけ押井好きとしては、この映画はショックだ。本当なら、『GHOST IN THE SHELL』のあとに、言ってしまえば、『イノセンス』で我々が彼にやってほしかったのは、こういう映画ではなかったか。そういう意味では我らが押井さんはもう、本当に世間からお役御免になってしまったのだ。

無重力アクションの釣瓶打ちだけでは飽きてしまうところを、重層夢の構造的面白さと、アーキテクチャラルな絵の斬新さと、主人公のトラウマ・ドラマをほどよく織り交ぜて、観客を置いてきぼりにしないようにあちらこちらへ引っぱりまわす。単体で見たら、どっかで見たようなシーン、使い古されたネタでしかないはずなのに、不思議とそれを意識させない。

そう言えば、ディカプリオが妻を死なせて気が狂いそうって映画、ついこのあいだも見たし、つい一年前ぐらいにも見た気がするぞ。もう、この映画自体が重層デジャヴみたいな……

ノーランも、つくづくトラウマ話がお好き。それが展開に深みを与えているのだから、ガチなのだろう。

そもそも、人のおつむに強迫観念を植え付けに行くという酷い話なのに、主人公がトラウマに七転八倒し、どいつもこいつも一生懸命で、だまされる方も一生懸命だまされた挙句、つかまされたガセネタならぬ、やらせメッセージが「自分なりに生きろ」という、あらびっくりなポジティブ・メッセージで、挙句に妻を救えなかった男が敵だか味方だかようわからん男を救ううちに友情みたいになっちゃったりして、ターゲットひっくるめて敵も味方もなくなっちゃって、ついに飛行機のなかで目覚めた日にゃなんだかもう、あなた方全員と何年もいっしょに旅をしてきたかのようなみょうな錯覚が襲ってきて、涙がボロボロ出てきたよ!

こんな夢落ちは、初めてです。でもそれは、心が悪夢に迷ったら家族が待ってる家に帰ろうっていう、実にありきたりなストックホルム症候群……なんてな。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)おーい粗茶[*] [*] kazya-f[*] 甘崎庵[*] プロキオン14[*]

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