なにしろ、この不況だ。この企画が、９０年代の何分の一かのバジェットを有効活用するべく一定のクオリティと安牌で捻出された苦肉の商品だということはわかる。

　ただ、この映画には、『インディペンデンス・デイ』にさえあった、とにかく万人をワクワクさせよう、見たことのないものを見せつけてやろうという野心がまったくない。

　しいて新しいものが見えた瞬間があったとすれば、8ミリフィルムの向こうで６０年代の空気に似合わぬデザインの宇宙船が一瞬でバラバラになりキューブの山と化したことぐらいか。それ以外はことごとくがどっかで見たような設定の焼き直しなのだが、問題は、どっかで見たような設定が出てきてしまうことそのものではなく、作り手が独自の設定を突き詰める気なんかこれっぽっちもないことが透けて見えてしまうことなのだ。

　などと言えば、「おいおい、おまえさん分かってないな。いいかい、こいつは少年の成長譚なんだ。そこいらのくだらない宇宙人ものといっしょにしちゃうなんて、子供だな。大切なのは、少年が友達といっしょに困難に立ち向かい、彼女と合わせてその心まで救い、父との絆をとりもどして母親の死を乗り越えることなんだ。こいつは、B級映画じゃないんだよ」などと怒られてしまいそうだが……

　目をつぶって想像してみてほしい。作り手側の心理を。まずは『Ｅ．Ｔ．』ライクなナイーブ主人公。当世風にオタクで、ちょっとキモがられがち。でも、クラスの（ひそかに気があった）かわいこちゃんと関わっちゃうハプニング。でも、この子と僕ちゃん、いや、僕ちゃんぜんぜん知らなかったんだけど、実は訳ありで、なんてこった、彼女、母ちゃんの事故の遠因になったオッサンの娘で俺様ちゃんに罪悪感を抱いちゃってたんだって、まいっちゃったなもう！ そりゃあ、僕ちゃんに上目遣いを見せないわけにいかないよね！

　――と、若干悪意を持って見ればというか、同じオタクからしてみると、こんなご都合な設定だらけな話は、あえて言えば、エロゲーですよ、エロゲー！！

　いや、べつにエロゲーだってかまいやしないのだ。私ががっかりするのは、たとえば、あの電線工事のオッサンがクレーンから木立の向こうを覗こうとするシークエンスだ。えー、なんですか？ 宇宙船の材料集めですか？ その残りかすらしき冷蔵庫の外枠などをポイポイ、ポイポイ、ポイポイ、ポイポイ……ええかげんにせえよ、こら！！ 何やってんの、ねえ？ 何をポイポイポイポイ――こういうスピルバーグ的なお笑いビックリ演出、本当に嫌いなんだが、なぜ嫌いかと言えば、宇宙船の材料集めなんて種明かしは30年も古い上、知的な宇宙人がこんなことする必然なんてまったく無いからだ。

　要するに『クローバーフィールド　ＨＡＫＡＩＳＨＡ』がそうだったように、監督は、怪獣や宇宙人が出てくる状況を使ってアトラクション映像を見せたいだけなのだ。でも、それだけだとB級映画だ（バカだ）と思われるから、ドラマはおセンチに演出しておくのだ。宇宙人なんて、そんなもん、装置のひとつにすぎないんだから、なんだっていいのだ。だからこそ、見た目もアクションもクリーチャーまるだしな、でも、一億光年進んだテクノロジーと神がかりなテレパシーを持ってるなんて初歩的な思考停止をオマージュを騙った怠慢意匠で平然と見せたりするのだ。

　映画ド素人の私には、演出などの技術的良し悪しはとんと分からない。だから、素人の放言と思って許してもらいたいのだが、特撮映画って「この宇宙人は、どんな未知の存在なのか？」とか、「どんな目的を持って地球に来たのか？」とか、「どんな未知のモチーフを持っているのか？」とかを追及するものなんじゃないんですか？ このジャンルは、それがあってのジュブナイルだと思う。宇宙人なしでも成立する家族愛だの、恋人救出だの、そんなのをこのジャンルでやる意味がどこにあるんですか？

　あるとすれば、大多数たる“べつに宇宙人なんかどうでもいい観客たち”を飽きさせないことだ。商売としては極めて重要なことだ。それは大切なことだと心底思う。ただ、それでも私は（べつにこの映画にかぎらずで、うすうす気づいてたことだが）アメリカの超大作はもう未知との遭遇をしたいって欲求がほぼ無いのだと思えて、とてもモヤモヤした。不況だもんね、宇宙人どころじゃないよね……