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[コメント] ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(2019/米)

「ご覧、あれが……」令和元年6月1日、初めて娘たちと映画館でゴジラを見る。念願成就に、何も言うことはない。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 五年前に公開された前作をどこで見切ったかと言えば、オープニングだ。ビキニ環礁のコラージュにゴジラが描かれた核弾頭のカットが入ったのを見て、物語が何をやろうとしているのか100%わかったし、その程度が知れ、自分の中のハードルをぐっと下げた。後はもう、70年代の『対ガイガン』辺りの極大復刻を見ているつもりで大いに楽しんだ。賞賛したいスペクタクルはたくさんあった。ただ、どうにも拭えないしこりが残ったのも事実だ。

 原爆は絶対悪。その痛みに端を発する忌避の是非を問うてはならないという不可侵の倫理観が自分のようないい加減極まりないリベラルの中にも確かにあって、それは初代ゴジラ偏重の感覚とも折り合いがいい。けれども、そんな日本人の感覚を、彼らアメリカ人はどこまで行っても知らない。“被爆をなめるなよ”と一種の誇りを持って構えている我々に対し、斜め上を行くプレゼンをしてくる。芹沢猪四郎博士が核弾頭をニンニク注射のごとくゴジラに打ち込んで殉死するのをこれみよがしのお涙頂戴シークエンスとして描いてしまうのだ。

 この映画は、真剣なSFでは決してない。平成VSシリーズのGフォースを髣髴とさせる胡散臭いばかりの組織、モナークを象徴する鬱陶しい黒縁メガネが空洞説がどうのとか言い出したらもう聞いちゃいられない。怪獣の破壊はむしろ地球環境に調和をもたらすのであって、地球に破滅を招こうとしているのは文明、現実に存在している本当の怪獣は今を生きる我々というテーマも、日本の特撮や漫画、アニメの受け売り以上の何かはない。何より今回も要所は平成ガメラの剽窃、しかも順を追って『レギオン襲来』における水野美紀のセリフをチャン・ツィイーに言わせる空々しさ、もしくは痴漢行為を我々日本の特撮ファンは看過できない。怪獣が破壊した地平が再生してラッキーでハッピーみたいなエンディングにも失笑するほかないのだが、何より強烈だったのはこれだ。

うちの娘「ゴジさんのおうちが出てきたねえ?!」

わたくし「そっ……そうだねえ。ゴジさんのおうちは、パパも初めて見たな……それにしても今日は暑いねえ……」

ヨメ「……(ニマニマ)」

オレ「……(イラッ)」

 本国アメリカでのオープニング興業成績は前作の半分にすぎなかったというが、お子様ランチが好きだったりすぐ飽きたりするあちらでもすでに化けの皮が剥がれているらしい。次作にあたって反省した方がいいと思う(もうクランクインしているのかもしれないが)。

 ただ個人的な本音としては、それでも自分はこの幼児性全開の脚本を突き放すことができないのだ。まっとうな映画好きは言う。

ヨメ「……でもさあ、人間ドラマもさあ、特攻決めて盛り上げるとか、それしかないの?」

 言われてはたと気づいたものの、黙っていたことがある。違うのだ、ヨメよ……結論を言えば、これはゴジラ・ポルノなんだ。セリザワごっこ。リーサル・ウエポン抱いてゴジラのおうちに赴く。初代は抹殺するためだったのに、今や復活させるために『K19』も真っ青な線量の中をケトケトになりながら神殿のぼって、あろう事か防護服ぬいじゃって、ぐったりしたゴジラにタッチして語りかける。「さらば、友よ……(チュドーン!)」。そうして復活してくるのが平成VSシリーズの徒花バーニング・ゴジラという、臆面もない溺愛と過去ネタの乱用はぜんぶどこかがずれているのに、勢いだけはとにかく凄まじい。これはもう紛うことなき異邦人の、でもゴジラを好きすぎちゃった同士のはしたないまでに膨らんだ欲望の発露なんだ。ずれているんだけど、でもそれ、さんじゃなくて、オレがやりたかったんだ……!

 さらに恐るべきはドハティさん、同じ事をキングギドラにもやるのである。くされた人類に鉄槌くだす怪獣の役割に気づいちゃった女マッド・サイエンティスト。一児をゴジラのせいで失った悲劇を逆説的に肯定したくて、娘まで巻き込んで暗躍。平然と同僚を犠牲にしながらモンスター0ににじりよると、自分を見限った夫の眼前でこれ見よがしにポチッとな。満を持して三首もたげたギドラは暴れます壊します引力光線吐きまくりますで、もうぐっちゃぐっちゃにされた人類社会に向かって、彼女は己の信条を、狂気のリサイタルをジャイアニズム・オン・エアー。自分を見限った夫に……世間で名優扱いのカイル・チャンドラーに「宇宙怪獣だ!」言わしめるさらなる痴漢行為を経て、臆面もなく人類を叩きのめした暴走母ちゃんは、しかし、最後の最後であろうことか愛娘のために贖罪としゃれ込む。手塩にかけた毒電波を以てギドラに見初められ、地獄のストーキングかまされた挙げ句ついにぶち殺されるくだりは詩的なまでに真っ赤っかで、「それ、おまえが気持ち良くてやってんだろう!」としかオレには見えない。だって超気持ちいいんだもんな……!

 というわけで人間ドラマも大変奥深く描かれていたわけですが、こちらの家庭内の問題を申し上げるなら、すでにゴジラという存在に言いしれぬ警戒感を抱いている我が娘たち「やだ、ゴジラなんて見たくない」と言い続けてきたものの、「えっとねえ、今度のゴジさん、座席が動いたりするんだよ」「ディズニーランドみたいに?」「そう、ディズニーランドみたいに……!」とMX4Dを用意しての誠意ある交渉が実り、あとはもう極大の二枚看板が期待通りに大見得切ってくれるかどうか、ぶっちゃっけ問題はそこだけだった。

 これはもう本当に期待以上で、次女は「ねえ、これジッサイ(実際)のお話なの? ジッサイのお話なの……?」と初めての実写映画(半分以上CGだけど)にたじろぎ、長女はモスラの幼虫が暴れ始めたところからパパの腕にしがみついたきり離さず、最後の方などとにかくギドラを早く何とかしてほしくってクマのぬいぐるみをフリフリやりはじめたものだが、いやいやそれは他のお客さんのご迷惑になるからね。

 ……ふと気づいたのだが、自分、物心ついた時点ですでにゴジラが好きすぎて、ゴジラを怖いと思ったことが一度もなかったのだ。心底から震え上がるようなゴジラに映画館で出会いたいと思いながら、叶わずに大人になってしまっていた。これってある意味、ゴジラを信じられたことが一度もなかったということではないのか……? 震える娘たちから少しだけ伝わってきた確かな恐怖の片鱗があって、「いいなあ、君たちは……」と思わずにいられない kiona、42歳、悪酔いして訪れるシネスケでゲロばっか吐いております。

 万感が去来した一日は、令和などもう数年が過ぎ去ったかのように長く、暑く、そういえばヨメの誕生日であった。

(評価:★4)

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