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[コメント] 男はつらいよ フーテンの寅(1970/日)

“腹違い”故か、シリーズ化を見越しての方程式がまだ確立できていなかったのか、喜劇と人情劇がまだ“所帯を持てていない”感じ。
kiona

 ※三作目とあらば、どうしたってシリーズの中に位置づけて観ることになる。以前より、以後から捉えてのレビュー。

 全体的にギャグが単なるギャグで終わってしまっていて、笑いが哀感に結び付いていない感じがする。結果、単体では注目に値するシークエンスが、流れを作れずに浮いてしまっている。例えば、酔いよいのテキ屋相手にお約束をかますシーンなんてもっと強烈に迫ってきそうなものだが、何故か、いまいち冷めていた。

 確立できていないと言えば、その後のシリーズの基盤となるトラヤ像も然り、なんか違和感がある。変に寅を立てようとするおいちゃん、おばちゃん。あっさり“兄さん”に手を挙げるヒロシ。初作のリセットとシリーズ化を目論んでの七転八倒の中、社長以外のレギュラーメンバーがほとんどらしさを発揮できずに、浮ついたまま終わってしまっていた。ただし、その混沌が、史上最悪とも言える寅さんの醜態を吐き出したのは、収穫だったかもしれない。というのも…

 この一本におけるさくらの出番、少な過ぎたし、大した深みも出せず終いだったのだが、今後を記号的に象徴するようなものであったというのも確か。さくら不在のトラヤにあって、ひたすら混沌を醸成する寅次郎だが、その後のシーンで、文字通りの秩序をもたらしたのが、さくらであった。詰まるところ、寅次郎=カオス、さくら=コスモス…このカオスとコスモスのループが、永遠のワンパターンの核となったわけだが、その方程式を決めるシークエンスであった気がするのだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぱーこ[*] ゑぎ[*]

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