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[コメント] 新幹線大爆破(1975/日)

ズーミングの多用等、ださい演出の数々は黒澤的精緻な絵造りにはほど遠く、表層は古びてしまっているかもしれないが、核の部分、つまり面白い映画を作ろうという意気込みとその成果は決して風化していない。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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特撮映画じゃないんだから(いや、特撮映画だけど…)と思わせる不用意な発砲に、民間人たる柔道部員への安易な協力要請などなど、捜査ミス(いや、此処まで行くと不祥事か?)で尽く事態を悪化させていただけという警察の対応の描き方は確かにお粗末で、なおかつ、その中に『天国と地獄』や『狼たちの午後』的な好人物ならぬ好警察官が一人もいなかったのは不満が残る。ただ、それによって二山、三山あるストーリーが醸成されたのだから痛し痒し。その点を差し引いても、『スピード』的状況設定はもとより、『レッドオクトーバーを追え!』的ストップウォッチ・サスペンスに、『ヒート』なクライマックスと、九十年代ハリウッド娯楽大作の好要素をこれだけ先取りしているのだから、面白くないわけがない。

何がいいかって、パニック終了後の人物描写の丁寧さ。辞職を願い出た宇津井健に、「おい、おい」と思ったが、その口上を聞かされ、納得。単に情報操作に対してヒステリックな抗議をしたかったのではなく、潔癖な職業倫理から理路整然と自分の責任を自覚し、ストイックに自分を裁いていたのだ。そこには、単なる娯楽映画を越えた確たるものが感じられた。

最後にさんだけど、やっぱり素晴らしい。何度も挿入される回想は、量のわりには底が浅く、登場人物達の背景で『天国と地獄』的“時代の告発”とまでいかなかったのは残念だったけど、自分が乗るはずだった飛行機を見送った時の表情など、台詞に頼らず表情で物語るさんならではの演技により、ラストは説得力を持ち得ていた。

…こんな骨太な和製大作がまた見られるのは,いつの日になることやら。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)pori torinoshield[*] あき♪[*] ジョー・チップ 荒馬大介[*] BRAVO30000W![*]

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