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[コメント] 宇宙大戦争(1959/日)

この映画が、他の「宇宙を舞台にした戦争」や「地球の危機」を描いた大作達を圧倒しているとすれば、それは紛れもなく「地球人」を描いているからである。
kiona

 宇宙からの侵略者VS地球連合軍…思えば、目眩を覚えるようなテーマであり、ストーリーだ。しかも、その中心にいるのが日本人なのである。憔悴しきった今の日本の娯楽映画では、到底叶わぬ話だ。やったとしても『リーターナー』ぐらいで終わるのが関の山だろう。

 あるいは『インデペンデンス・デイ』や『アルマゲドン』にアメリカ中心主義の臭いをかぎ取り、拒絶しようとするにもかかわらず、この『宇宙大戦争』で日本人が中心にいることを誇らしく思ってしまうのは、単に日本人の端くれたる自分のナショナリズム的エゴなのかもしれない。が、そうとも言い切れない部分があるとすれば、この映画ができうる範囲で外国人を描写しようと腐心している点である。

 特撮ばかりに目が行きがちな当作品だが、自分が何より感じ入るのは、あの国際会議の場面と、これから月に向かわんとする隊の連中を送り出す場面だ。特段面白いシーンでもなければ、ストーリー上重要なシーンでもない。単なる娯楽映画、またはSF映画で終わらそうとするなら、バジェットを回すのがためらわれるシーンだ。にもかかわらず、大量の外国人俳優を起用しての、前者の丁寧な舞台造り、後者の壮絶な規模。ここに、この映画の真価がある。日本人でも、外国人でもなく、地球人を描こうとしている。宇宙人の侵略を前にして一つになる地球人を、ド本気で描こうとしているのだ。

 『インデペンデンス・デイ』のクライマックスにおける、やっつけのような外国人描写と比べてみてほしい。この映画の、何処かの国の名もない管制官の女性が恋人であろう戦闘機のパイロットを無言で、ただ哀しげに送り出す、さりげないワンシーンに注目してほしい。不特定多数を描写するのに相応しい、その慎ましさ。『アルマゲドン』におけるアフレックリブ・タイラーのこれ見よがしなロマンスと比べ、どれほど美しいことか!

 この映画には、『スターウォーズ』やそれに追従する作品の核となっているような込み入った思想はない。現実の暗喩たらんと架空の舞台を用意しながら架空であることが逃げ道となっている作品の思想は、突き詰めれば娯楽でしかない。この映画の舞台は、あくまで現実だ。逃げ道は無い。にもかかわらず、尊大な理想を謳うバカげた潔さ! それがときに国際協調の場でババを引かされる(ナタール人に操られ、場をかき乱す)者にターバンを巻いた人種を選んでしまうといった、未来予知の如き皮肉な偶然を内包していることをも噛みしめつつ、自分はその潔さを何よりも愛す。その潔さを裏付ける真面目な本編演出を信ずる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)IN4MATION おーい粗茶[*] ペペロンチーノ[*] sawa:38[*] ロボトミー[*] ゼロゼロUFO[*] 荒馬大介[*] ペンクロフ[*] 甘崎庵[*]

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