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[コメント] バウンド(1996/米)

何故、レズビアンだったか?
kiona

 サスペンスとロマンスは切っても切り離せないようでいて、その実、よほど旨く絡ませないと水と油になってしまう。はっきり言ってロマンスはサスペンスの流れを停滞させる事のほうが多い。何故か?

 サスペンスは、観客に、他のどんなジャンルよりも強く、主体への感情移入を迫る。そして、その副作用として、擬似恋愛まで迫ってしまう。これが困りものなのだ。何故なら、観客には、何をおいても筋に寄り添ってもらい追ってもらう事を要求したいのに、恋愛感情に関する作家と自分との間の差異は、それをいちいち停滞させる。観客の思考を、筋とは無関係の部分で、枝分かれさせていってしまうのである。

 これを回避するために最も有効だったのが、他でもない、ヒッチコック・ブロンドだったろう。それに象徴されるヒッチコックの男女間演出、お約束の数々は、ロマンスを記号化させることで、観客をして、あくまでサスペンスを第一に、ロマンスを二の次にとらえさせた。

 この映画は、そんなヒッチコック演出に代わる仕掛けを用意して見せた。それがレズビアンという設定だ。あのレズ・セックスは圧倒的。圧倒的過ぎて、ロマンスに対するこちらの思考の膨らみをまんまと相殺してしまったように思う。或いは、男女間の場合には、しばしば問題となる微妙なバランスの問題も発生せず、どっちが引くとかどっちが出るとかも、極めて筋に対し忠実に決定できていた。

 観客の圧倒的多数が未体験であることも大きなアドバンテージ。この同性愛という設定は、作家と観客の間にしばしばダイアローグを産んでしまう男女間のサスペンスに比べ、演出の独壇場としてしまう事が出来る…ように思われる。

 少なくとも、自分は、このレズ・ロマンスに心地よく突き放される快感を味わいながら、混濁することなく純粋にサスペンスを楽しめた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (10 人)すやすや ホッチkiss[*] m[*] Linus ハム[*] 1/2(Nibunnnoiti[*] mize[*] Shrewd Fellow[*] KADAGIO[*] ina

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