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[コメント] 大巨獣ガッパ(1967/日)

ラドンがあくまでプテラノドンが進化した巨大生物であるなら、或いは三首・双尾・金色のキングギドラが宇宙大怪獣であるなら、腕とは別に翼を持つガッパは神獣という冠詞が相応しい。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 『怪獣ゴルゴ』という、『ゴジラ』を目指して造られた、確かイタリア製の怪獣映画があって、この『大巨獣ガッパ』はそれを元ネタにしている(らしい)。俺の親父は観たと豪語している。「子供を助けに来るんだよ。」と言っていた。この『ガッパ』と類似しているので、本当らしい。親父は1954年に『七人の侍』と『ゴジラ』を観ている。考えてみればすげえ年、その後の娯楽映画を決定付けた年だと言っても過言じゃないだろう。一方は人間VS人間を、一方は人間VS怪物を描ききったという点にあって、その後の娯楽映画はこの1954年の呪縛から一歩も出ていない。

 元ネタがあるにしても、このガッパという怪獣のキャラ作りは独創的だ。核の申し子か斬新な宇宙怪獣が基本の東宝怪獣やいまいち安直な巨大生物ばかりの大映怪獣に比べ、このガッパはデザインにも、演出にも、シナリオにも、地味だが神々しい神獣らしさが見える。目を強調するカットが天罰的な怖さを実に上手く表現していたし、何と言っても海から飛び上がるシーンがいい。つがいである事が最大限に活かされたシーンだった。人間社会を襲うにも、子供をさらわれたからという明確な動機があり、文明にはおかしちゃならない領域があるんだというメッセージはまさに神獣に相応しい。(ただし、茹蛸をくわえていた意味は今もって不明。)

 さらに特筆すべきは本編。傲慢な企業家と野心家の記者とこれまた野心に駆られた生物学者が三つ巴となり、どろどろとした大人の世界を展開するんだが、そんな大人たちのエゴを解きほぐしたのは、故郷のためにはるばるやってきた原住民の少年と企業家の娘、幼くして母を亡くした娘の涙。親父の傲慢さに対し、彼女は叫ぶ。子供をお母さんに返してあげて、と。…こうやって書いたら物凄い傑作のような感じがするでしょ?

 実際のところは突っ込みどころが多く、今見ると偽善とすれすれだったりする。間違っているのではなく、足りないのです。いくら改心したって、おまえらのせいで熱海が壊滅したんだぞ? それで、一件落着かよ? などという野暮な突っ込みは入れないとしても、もう少し丁寧にやって欲しかった。企業家の社長の傲慢さや新聞記者の野心にも、それぞれ事情があるということを結構描けていたので、大人の気持ちを解きほぐし神獣との和解を導く重大な役どころである少女と少年の描き方にもう一工夫欲しかった。

 短尺が作品の可能性を殺してしまっている。脚本を練り直してリメイクしてもらいたいような、もったいない一本。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)水那岐[*] べーたん 直人[*] ゼロゼロUFO[*] 荒馬大介[*] ina 甘崎庵[*]

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