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[コメント] 野良犬(1973/日)

黒澤映画の換骨奪胎に、当時の森崎監督らしい沖縄問題を強引に結び付け、そして公僕としての警官の存在の空しさを匂わせたグロテスクなリニューアル作。森崎は原作のテーマなどは知っていても無視するつもりでこの仕事を引き受けたのだろう。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ベテラン刑事たる芦田伸介の娘松坂慶子は、父の仕事を誇らず、むしろ嫌悪すらしている。父がケーキをみやげに帰宅した夜は、決まって重大事件の犯人が捕らえられたその日であり、自分たちが喜んでいる裏では泣いている人たちがいるのだ…それを思えばケーキなど喉を通らず、いつも隠れて捨てていたというのだ。いくらなんでもこの家族描写はひどい。左派監督による描写とはいえ、この映画では刑事が徹底的に報われない仕事として描かれる。芦田は事件半ばにして犯人たちの凶弾に倒れることによって、初めて娘から「免罪」される。

そして主人公・渡哲也にしてからが事件の最後まで自ら犯人たちに手錠をかけることはなく、最後の犯人と銃を取り合い、強引に取り戻して発砲、絶命させることになるのだ。これでは渡ならずとも銃を床に叩きつけたくもなり、警官としての我が身を呪うだろう。この映画でいう「野良犬」とは市民を守るべき銃を犯人に奪われて彷徨する警官の自嘲ではない。沖縄人という、未だ米軍の飼い犬たらしめられている犬たちを襲う、野蛮きわまりない犬たちの蔑称なのだ。いくら解釈は自由といっても、これは原作の全否定としか思えない。観たあとに残った感情は、ざらざらして渇いた嫌な感覚のみだった。

(評価:★2)

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