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[コメント] ビッグ・フィッシュ(2003/米)

ティム・バートンにとっての父親とは、やはり生きかたを示すひとつの権威なのだろう。彼もやはり、どう転んでもアメリカ人なのだ、との思いを強くした。(『みなさん、さようなら。』ともからめて…ですが、ネタバレは本作品のみです)
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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時期を同じくして、同じく犬猿の仲の父の死を息子が看取る、というモチーフのカナダ=フランス映画『みなさん、さようなら。』を観た。これと本作を較べてみると、お国柄が感じられて非常に興味深い。

ビッグ・フィッシュ』の父は、変わらない絶対的な父である。たとえただの大ボラ吹き親父であろうと息子は彼を肯定するか、否定するかで大いに悩まされることになる。そして否定し続ける限り、彼はカインのような後ろめたさを背負わざるを得ない。

ひるがえって『みなさん、さようなら。』では息子は主義も性格も違う父をきっぱりと別の生き方の具現化として見ている。その上で、父に不幸な死を与えないために、息子はビジネスライクに父の望みを叶えてゆく。

もちろんこれをもって、アングロアメリカとフランス寄りのカナダとの典型と断じるのは乱暴に過ぎるだろう。だが父と子の在りようが、二つの映画を眺めてこんなにも違う、という事実は面白いものがある。どちらが親しい父子かは人それぞれだが、家族主義と個人主義との差異であるとまとめてしまっては安易になりすぎるだろうか。

アメリカ人は歴史の浅い民族だからこそ、魔女や巨人、巨大魚といったおどろおどろしい伝説を好み、一方では最先進国のプライドを賭けて激しく拒絶する。そして父親を誇りたがるか、絶望をこめて背を向ける。その気持ちは日本人がとやかく言えるものではないが、そこに息子と父の葛藤、といった感情が入ってくると物語は俄然われわれにも判り易いものになる。先ほど比較した「みなさん…」よりもウェットな感じが理解を助けるのだろう。ラスト、父親の葬式に集まった、大ボラでお馴染みのそれぞれの「俳優」たちには、父親が思いがけず多くの人々から愛されていたんだな、との感慨が胸に込み上げる。父親のホラは必ずしも「ウソ」ではない。彼の死を嘆く人たちは、息子のあずかり知らぬところできちんと生きていたのだ。それを父親の生前に見せないのがバートンであり、アメリカ人である。公と私の使い分けの差がここで出てくる。日本人にとっては、家庭の者たちにじめじめした泣きを見せたくない、という考えが、最後には自ら魚になって逃げ去ってしまう父の姿としてよく伝わってくる。

今回、大ボラ吹きとしては妙に小ぢんまりしていたバートンは、むしろアメリカのよき父を描きたかったのかもしれない。

(評価:★4)

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