[コメント] バットマン ビギンズ(2005/米)
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充分この物語を楽しめたのは、ティム・バートン監督のバットマン・シリーズを自分がこよなく愛していた所為もあるのだが、この作品はむしろバットマン映画を一本も観ていない観客向けのバットマンであるようにも思える。この作品には「正義の基地外」も「悪の基地外」も出て来はしない。強いて言えば正義の基地外を目指すバットマンの、試行錯誤の物語だろう。敵たる者は、奇人変人の類ではなく、きわめて現代的なテロリストだ(ラストについて、試写会のチラシにはまだ記憶に新しい列車脱線事故と似通ったシーンであることのお詫びがあるくらいだ)。そしてまだ正義も悪も混沌の中にあり、その渦中でブルース・ウェインはあがき続ける。
敵がヒマラヤ山中に潜む歴史腐敗の審判者である点には、あまりリアリティーは感じられないし、「影の軍団」のそのまんま忍者ぶりには苦笑するしかないのだけれど、彼らの行動は極めてリアルであり、その凶行をバットマンがいかに阻むかが今回の観どころになる。だが、この続編がジャック・ニコルソンのジョーカーが活躍する第1作となると、ちょっと意地の悪い冗談のように思えてくる。ふたつの作品のカラーは、その公開年の差に倍するほどのギャップを抱えているからだ。ジョーカーやペンギンのような哀感溢れる敵役がレトロに見える現在では、観客は過去に遡った筈の劇をリニューアルされた新作として見る複雑さを体感させられるのだ。しかし嬉しいことに、それは観客にとって全く困惑のタネにはならない。言ってみれば観客が歳を重ねたぶん、映画も成長したということだ。クリスチャン・ベールが「子供向けのバットマンがあってもいいように、ブルース・ウェインの濡れ場がある大人向けのバットマンもあっていいだろう」と言っているその言葉には、素直に肯かされる。
唯一の不満は、あれだけ(日本では)宣伝された渡辺謙が顔見世程度にしか登場しないということだが、出始めハリウッド男優としては、まあこんなものなのだろう。映画の題名にまでなってしまう三船敏郎あたりとは、まだまだ格がちがうだけか。
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