秘密のない家、という一種不気味な家が舞台である。小泉も鈴木杏も（彼女は普段より抑えているが）陽性の演技であり、父や息子も同じだ。そして、自分をつくった（性交した）場所の話や生理の始まった日の話をする。その気色悪さは尋常ではない。ソニンが吐き気を催して出ていった気持ちも判る。

それは大楠道代（祖母）の小泉への偏った接し方への反感から生まれたものだと、次第に判らされる。だから小泉が文字通り命を賭けて創りあげた、偽りの楽園を破壊した祖母に、小泉は「死ねば？」とすら口にする。きわめて普通の言葉としての「死ねば？」である。

このあたりには鳥肌が立つ。

後に小泉が丹精して育てたガーデンの植物に血の雨が降り注ぎ、真っ赤に染められた小泉が絶叫する幻想シーンがあるが、自分にとっては「死ねば？」の方が断然恐い。映画的ではあるが、血塗れシーンは所詮一時代前のスプラッタである。衝撃性はない。

だがその直後に、「決まり」に振り回されることを辞めた家族たちが、花のプレゼントをもって小泉に届けるシーンで、観客は一息つくことができる。ここで花と一緒に小さな熊の縫いぐるみが手渡されるのは興味深い。これは鈴木が級友とラブホテルを訪れたときに、そこの棚にしまったものであり、大楠がそのホテルを見に行ったときにも摘み上げたものだ。「清濁併せ呑む」偽りを棄てた家庭を始めてゆこうとする家族たちにとって、シンボリックな品である。

自分にとっては、怪異の存在しない家族ホラーとして観て、もうちょっと突っ込んで欲しかったとは感じたが、小泉をはじめとする女性描写には瞠目させられた一作であった。