たけしはタイトル通り、「監督」として物語のなかに入り込んでいながらも、けしてギャグの輪に入っていこうとはしない（例外は「マトリョーシカ」と「能楽堂」くらいだ）。

江守徹も、岸本加世子も、鈴木杏もみなキタノブルー（おい、言葉の意味取り違えてるんじゃないのか？）に肩まで染まっているのに、彼ひとりが肩をすくめ、申し訳なさそうにうつむきながらただそこにいるのみなのだ。そういう役なのだ、というのは逃げに過ぎない。俺は未だに『オレたちひょうきん族』の頃のたけしは『世界の北野』なんかよりずっと良かったと思っているのだが、この映画で彼の十八番的演技を体現するのは江守であり、井手らっきょなのだ。たけし本人は芸者の格好もしなければ、オマルに乗ってはしゃぎもしない。照れ屋だったのは昔からだろうが、それを恥ずかしげもなく表に出すようになったら芸人おしまいだな、とつくづく思う。たけしが「芸術」オンリー監督に脱皮する踏み台がこれなら落胆するばかりだ。ターニングポイントに向かうべきどんなエナジーもここには蓄積されていない。せいぜい世界を相手に、同類の海外監督にも判る生ぬるいギャグをやっててくれ。