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[コメント] スカイ・クロラ(2008/日)

今までの押井作品で、ここまで愛せたものはなかったような気がする。基本的に死と生の狭間を垣間見る極めて儚い愛情の物語を、脚本家伊藤ちひろに任せたのは強ち間違いでもなかったろう。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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主人公たちは極めて偽悪的にタバコを吸う。自らを肯定する術を露呈したがっているようにセックスに向かう。

しかし悲しいかな、まるで日本のアニメーションの弱点を見せ付けるかのように彼らは子供だ。子供が粋がって理屈を並べ立て(まあ、基本的な押井ラインから見れば大人しいものだが)、傷つけあっているようにしか見えない。それがこの物語の堪らないかなしさだ。女は子供を産む。男も人を殺す。それでも稚戯にしか見えないかなしさ。いつでも大人…例えば整備主任のもとでは「なぜなぜ坊や」にしかなり得ず、大人には言ってはいけないことがあるのが何故判らないのか、とばかりに言葉をはぐらかされる「擬似少年」。彼らが人間ではない何者かであることは、石持て追われるのではなく、むしろ暖かな周りの大人たちの応対に囲まれることによって、さらに倍増する実感だ。

これは日本という、未熟を悪としない国だからこそ出現しえた物語だろう。押井も爺さん達がリアルに物語の舵を取る、実写指向の物語をさんざ撮ってきた。

だがこれは違う。これは大人の声をもった子供達が演技する地上の賽の河原だ。アニメーションだからこそ、初めて描き得るものだ。自分としては、大いにその特異性を評価したいのである。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)代参の男[*] ホッチkiss[*] 死ぬまでシネマ[*] けにろん[*] 地平線のドーリア

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