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[コメント] 20世紀少年 第1章(2008/日)

ここにも、七十年代に至る子供たちの、高揚する心の残滓が散見される。しかし豪華な出演陣にばかり目をやって、コミックの中ならではのリアリティを持つ設定が、戯画化されたままで投げ出されてはいないか。映画的な漫画だからと咀嚼を怠るのは感心できないだろう。飽きさせないパワーには敬意を表するけれども。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







例えばケンヂだ。最強のテロリストなどという異名をとった男が、あれだけ長い間捕縛されずに済むのには無理がある。そして友民党は世界的な「悪の組織」のカムフラージュでありながら、あまりにも卑小すぎる。彼らの主催するロックフェスも、建物の規模も、そして何よりもキモになる彼らによる破壊・殺戮シーンもだ。キャラクターそれぞれの魅力はそれなりに認められるのだが、こうまで真に迫らない脅威を見せ付けられると気持ちが冷めてしまう。映画にするんだ、もう少し気持ちを厳しく持って欲しい。

浦沢直樹は、映画的なコミックの先駆者である大友克洋の正統な後継者とも言える漫画家だが、彼とて漫画を描いているのであり、作品には漫画ならではの省略、デフォルメ、おちゃらけが横溢している。それをそのまま鵜呑みにしてしまっては映画化の価値はあるまい。それこそ、『ゴジラ』映画に匹敵する危機感を盛り込めないようでは東宝映画の面目が立たないというものであろう。

「ともだち」やハットリくん仮面が怖ろしさに欠けるのは、やはり映画的なその感情を喚起できないところに起因し、映画ならではのハッタリを用意できなかったところに危うさが存在している。映画『ねじ式』の失敗を想起されたかった。漫画はどんなに映画にそっくりでも、良くも悪くも漫画なのであり、一本一本の線は神ならぬ個々の人間によって描かれるのだ。そこに漫画ならではの醍醐味があることを忘れてはならないだろう。

とはいえ、これは一定以上の面白さをもった作品にこぼす愚痴だ。やはり自分は第二章以後を待つだろうし、それを確認したい。だがちょっとだけこぼさせてくれ。唐沢寿明の活躍は、やはりあれだけでは物足りなかったぞ、と。

(評価:★3)

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