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[コメント] 炎上(1958/日)

人は己を認識して欲しいがゆえに生きる…それもまた事実だ。だが、物心ついたときより後ろ指をさされて生きてきた男は、それもまた認識の一つと一人合点してしまう。善も悪も無い。生きる証さえあれば、例え一つの権威を炎に包むことがあっても。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この物語の中で、雷蔵と彼を堕さしめるメフィスト、仲代はともにハンディキャップを持っている。それゆえに彼らの生の充足は常人からかけ離れたところへも飛ぶ。器用に生きる愉しみを小出しにしてちびちび味わう中村鴈治郎に、若き雷蔵は激しい肯定か、烈火の如き否定を求める。だが、鴈治郎は人生の達人として彼に何の叱責も、賞賛も与えず飼い続ける。それゆえ雷蔵は、無理にでも唾棄されるために大罪を犯す。

ここに自分は、若くして散った三島由紀夫を重ね合わせる。彼は師である川端康成より先に、どんな手段を使ってもノーベル文学賞を取りたがった男だ。そしてそれが叶わぬ望みだと知ったとき、三島は日本に炎を放つ。罵倒されることを覚悟で国へ殉ずる心を自衛隊員に求め、無理と知っている昭和維新の先頭に立とうとする。そうまでして己の存在を皆に認識させたかったのか…哀しい想いで自分は原作者の卑小な魂を昭和史の中にトレースするのだ。

(評価:★4)

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