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[コメント] メランコリア(2011/デンマーク=スウェーデン=仏=独)

なんと醜悪にして美麗なフィルムの残影か。精神に軋みを生じ、すくってもすくっても浮かび上がる人間の醜さが、『トリスタンとイゾルデ』のメロディに乗って周囲の世界をも呑み込んでゆく。醜さとは人間の弱さであり、それが他者に向け牙を剥いたとき最も恐ろしい存在へと昇華する。冒頭のスチルのようなコラージュ・アニメを味わうだけでも映画的感興を充分に呼び覚まされるし、ラストには鳥肌が全身を走り抜けた。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







凄絶なラスト。国家や人々の声に乗って知らされることもないカタストロフは、しかし明確な死をもたらす殺意の塊となってヒロインたちを吹き飛ばす。それに理由があるのかは自分には判らない。あるいはヒロインは、惑星の接近に拍車をかける働きをしていたか、ともとれる。彼女は全くの無防備な姿で、そして肩の荷が下りたような表情で破滅を迎え入れたのだから。

しかし、これが破滅を望む監督の偽らざる心境の反映、という解釈は自分にはどうなのだろう、と思わされる。憂鬱の中にたゆたい、そして弱く醜い自己を楯にして全てに報復を為そうとしているヒロインはやはり恐怖の対象であり、地球を滅ぼすだけの悪意は黒いユーモアの姿をもった個人像だ。気分的にいくらあの感情を共有できる時もあるとはいえど、これはやはり恐怖譚だ。

むしろ悪意に満ちて、おのれの披露宴を猥雑にぶち壊してゆくヒロインが後半の危機的状況と等価値の存在として荒れ狂うことをこそ、恐怖とともに嗤いたい。それこそが弱さの仮面を剥がれたひとりの人間の秘めた、恐るべき力なのだから。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)chokobo[*] MSRkb けにろん[*] セント[*]

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