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[コメント] アリスのままで(2014/米)

アリスもそうであるように、人間は誰しも「蝶」のように美しくはかなく命を終えられるものではない。最後のキーワードだけが彼女に残ったのではなく、地獄はここから始まるのだ。ジュリアン・ムーアの演技は凄絶だが、ここからの生き方をある日本映画のように演じられるだろうか。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







もちろんそれは、『明日の記憶』の渡辺謙ではなく、『恍惚の人』の森繁久彌である。家族など忘れ果て、糞尿にまみれてはしゃぐその存在を演じられる女優だろうか、彼女は。

無理を承知で書いてはいるのだ。それは賢女のプライドを持ち続けながら、作っていた料理がなんだったか煮込んでいるうちに判らなくなり、銀行カードを作っては紛失し涙ぐんでしまうわが母親の末路が想像できるまでに、その症状が進んでいる事実をいま突きつけられているためでもあるし、それ以上に文章を書きながら結論がなんであったか途方に暮れてしまう、ムーアと同世代のおのれへの恐怖のためでもある。綺麗ごとですむならいい。ムーアが「癌のほうがましだ」というのは、少なくとも人間らしく死ねるからでもあるのだ。

ムーアは大学教授として押しも押されもせぬ才媛の役どころである。彼女もまた自分の仕事にプライドをもつ存在であるはずだ。だからこそ、自分が家族にすら迷惑をかける生きた生ゴミとなったときのために彼女は自殺法をインプットしていた(これに翻弄される彼女のサスペンスは名場面だった)。だからこそ、もう一歩踏み込んだ残酷描写をしてほしかった。それを見せられるのは辛いが、甘々のメロドラマでは『恍惚の人』を知る俺たちの世代を納得させられる作品にはならないからだ。

(評価:★3)

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