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[コメント] トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(2015/米)

例えば「現代に独裁者が甦ったら?」といった問いかけの映画があるが、「善意の団体が数に任せて個人を弾圧しはじめたら?」という問いのほうが今のわが国ならば怖ろしいだろう。ギャグでなく「アカ」「国賊」「売国奴」といったことばが普通人の語彙に入り込みはじめた日本ならば。
水那岐

すでに「おまえは朝鮮人だろう」という根拠のない断定からはじまる個人弾圧は、なにも知らない子供たちではない立派な大人たちの差別行動のきっかけとなり得ている。自分は個人財産を手放したくはない消極的保守派にすぎないのだが、そんな臆病者であっても、自分の国が異民族や左派すらも受け入れられない「心の狭い国」になってゆくのを見るのは悲しいし怖い。まして生き残るために友を売るような国には住みたくない(などと言うと「ならば国を出て半島に行け」とレイシストたちは笑う。彼らは自分たちだけは日本に住む権利があり続けると信じて疑わないのだ)。

これを、「自虐」ではなく歴史の反省として映画の題材にし続けられるアメリカには、まだ良心が残っているのだな、と思わずにはいられない。胸糞の悪くなるようなヘレン・ミレンのクソババア演技を指弾すべくまな板に挙げられること。そして主人公ブライアン・クランストンを決して「偉人」ではない、打ちひしがれて家族崩壊の元凶ともなり得る一個人として描き、その上で賞賛すること。やはり見て学ぶ人間の国の映画なのだ。共産主義者というと北朝鮮や中国の傀儡のように断定する先祖返り国民とはレベルが違うのだ、と痛感させられる。

本当のことを言えば、この映画がここまでの絶賛に値する素晴らしい映画じゃない筈なのだ。ジョン・ウェインみたいな男を批判する書物やフィルムだって、皆無かといえばそうではない。だが、今の右傾化西側国家群の情けなさのなかで、これは落涙を催させる少数派となってしまった。俺は今後もその情けなさのぬるま湯に浸り続ける人間であり続けるだろうが、少なくとも「現実主義」の旗印のもとで他者を差別してやまないこの国の状況には、中指を立て続ける存在でありたいと思っている。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)エイト けにろん[*] 寒山拾得[*] セント[*]

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