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[コメント] オーバー・フェンス(2016/日)

ともすれば都会は蜜の甘さを含んだ蟻地獄となり、なんとなく失敗を許容してくれそうな根拠のない安堵感を人に与える。だが地方都市はある者には優しい故郷であっても、よそ者には一切のあやまちを許さない残酷さをむき出しにする。そのなかで主人公たちは確実に壊れてゆくのだ。
水那岐

函館こそが地方都市の典型というわけではないが、この街は映画にあってはきわめて残酷だし、職業訓練校はそのまま狂気をはぐくむ牢獄だ。楽しいこともない主人公は、仕事の真似事とから揚げ弁当、そしてビールの毎日をもって日々の思いをすり減らされてゆく。

あくまでわかりやすい事例としてオダギリジョーがクローズアップされているが、蒼井優も、あからさまに思いを爆発させる満島真之介も同じような閉塞を味わっているに違いない。匿名性のない地方都市では背負うべき責任の数の多さに人は疲れ、ままあることとして壊れてゆく。自分は原作作家のことはよく知らないのだが、函館という街を彼が愛してはいるにせよ、同時にそこに生きる息苦しさも十分に感じてはいるのだろう。あくまで、仕方ないことではあっても。

作品のラストは明るいもののようにも見えるが、何事も解決しているわけではない。言ってみれば一時的な妥協だ。だが、それを拒んでは人は最終的なところでまで疲弊してしまう。街のなかで生きることを選び取るのは、嫌いなものを拒む幼児性と決別することと似ているように思う。それは、匿名の都市で安易な満足を得ることなく、自分の責任を受け入れることで得られる新たな価値と向き合うことでもあるのではないか。

(評価:★5)

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