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[コメント] 永い言い訳(2016/日)

文字通りの体当たり演技を見せる本木雅弘には申し訳ないのだが、主人公は演技に長けた「モッくん」にしか自分には見えない。そういう架空人格であるところが、一方ではキャラクターの両義性を際立てている、と見えてしまうのがこの映画の面白さでもある。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







つまりは主人公の「元シブがき隊」性が、子供を造らずに50の声をきいた作家にしてタレントである男を演じて許される属性につながっていく、ということ。だからこそ本木は最後まで家族に属することはできないのだ。一方竹原ピストルは最初から水を得た魚として父親であるトラック運転手を装って、だれにも疑問を挟まれることもない。このあたりに本木の悲劇と特異性が共存している。彼はこんな役しか演じられないが、こんな役は彼にしか演じられない、ということでもあるのだ。これは素直に賞讃すべきことだろう。

時代はナルシシズムの時代だ。あるいは平凡な父親である竹原より、それには一生なりようもない自由民が増えているともいえるだろう。恥ずかしながら自分もその一員であるため、子供好きを装う本木より、子供と本質的に繋がっている竹原のほうが最終的にはむくわれるのだ、というラストの描写にはただ寂しいとしか言えない。遊ぶように生きている人間には、現実を生き素直に配偶者の死に向き合える人間の生をなぞることはできないのだ。それは自己愛に生きる生を選んだ者の負い目なのだろう。

(評価:★4)

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