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[コメント] チチを撮りに(2012/日)

ここにもさまざまなメタファーが陰に陽に現れている。父親を表す代替物のひとつとしての「マグロ」は爽快なエピソードを演出してくれることは置いておいて、もうひとつの品である「タバコ」は雄弁だ。これは月並みだがフロイト流解釈としての男根とみていいのだろう。オトコでありオトナだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず、キャバ嬢のバイトをしている長女はヘビースモーカーであり、つねにオトナとオトコを相手にしていることを誇示している。次女が逆にヴァージンというかコドモであることを武器にしているのとは対照的だ。

そうした解釈が容易である撮り方を見せた上で、姉妹の年の離れた異母弟の健気さが描かれる。死んでしまった父親は姉とおなじセブンスターを吸っていたことに弟は気づく。これは大人の男としての父親の位置づけだけれど、同時に彼が肺癌に敗れたことで、オトナとしてもオトコとしても不十分な存在であったことを如実に表現することとなる。そんな男の息子としての危うい状況におかれた弟は、自らタバコに火をつけて父親の冷たいくちびるにくわえさせる。これは一人前のオトコとオトナの地位を引き継ぐ、との弟のいじらしい意思表示であり、そんな意識を前に姉妹は、子供として無責任に葬儀の場を去る意思を覆されるのだ。

こういう小道具の使い方は「粋」ではないが判りやすく楽しい。母親と姉妹との共通認識である「乳」も似たものだが、さすがに女性器に触れないのは男性演出家としての矜持でもあるし、母子の父親ぬきで生きてゆく意思表示ともつながるのだろう。それは妊婦であり胎児の存在を誇示する叔母との関係を絶つ母子のスタンスをも、明確に表すモチーフだとも言えるはずだ。

(評価:★4)

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