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[コメント] 草原の実験(2014/露)

真上から人の営みを凝視するカメラ。それは「神の視座」を表すというよりは、悪戯っぽい遊び心から登場人物の行動に介入し、あたかもミスリードを狙ってすらいるような、あざとくも愛らしい遊び心か。不可解な出来事は頻出するが、これは敢えて「なんの暗喩なのか」などと頭を捻る必要はないだろう。どんな遊びが前方にあろうとも、真に語られるべきは少女の家をめぐる大草原が、どんな場であったかが明らかになる描写なのだから。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







構造は『TOMORROW 明日』に似ている。だが、反核映画とか反戦映画と見るべきかは疑問は残る。人間の営みの空しさ、それでも日々を慈しむ愛すべき人々への鎮魂のフィルムともとれる。

一番衝撃的なのは、ラストよりはキャラクターたちの生きる舞台が果て無き大草原ではなく、鉄条網で囲まれた実験場だった事実が暴かれるシーンだ。ここで日本語タイトルの「実験」が映画的実験ではなく「軍事的実験」であったことが知れる。だが、そうしたソ連の非人道的な核実験を糾弾するのが今更だと、アレクサンドル・コットも了解済みであるのは明確だ。むしろ、恐ろしさの前の切なさを唄う映画だ。それほどに男たちの愚かな実直さは愛らしいし、エレーナ・アンの美しさは素晴らしい。彼女と碧眼少年がキノコ雲と熱風を手をつないで迎える姿は、強く愚かしく、また愛らしい。絶対的な存在に立ち向かう非力なふたりの決意のひたむきさ。人間の美しさをそこに見た。

(評価:★4)

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