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[コメント] ナイチンゲール(2018/豪=カナダ=米)

西部劇の骨組みをもつこの映画には、人間の矮小さ、薄汚さ、身勝手さが余すところなく描写されている。それらに苛まれながらヒロインはもはや良識の欠片も持ち合わせぬ男への復讐に走るのだが、それに伴うカタルシスはというと何かおかしなことになっているのだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヒロインには現地人アボリジニーの案内役がついている。御多分に洩れず彼を、アイルランド人のヒロインは忌み嫌うわけだが、さまざまな事件に遭遇しながらゆっくりと彼女は案内役に心を寄せてゆくことになる。

だが、夫と我が子を奪った男にいざヒロインが銃をむける千載一遇のチャンスに彼女はしくじる。狙ってすらいない怯え切った彼女の肩を撃ち抜くことで、いとも簡単に仇はヒロインの戦意を奪うことに成功するのだ。それ以来機会があっても彼女は仇に銃を向けはしない。なるほど、実際の狙撃なんてそんなものだ。一発の射撃の重さは彼女に絶対的な恐怖を植え付けてしまったのだろう。このあたりリアルではあるのは確かだ。

しかしここで、仇を案内していたアボリジニーの伯父の呆気ない殺害という事件にふたりは立ち会う。これをきっかけに他人事であったヒロインの復讐への共感は相棒にとっても重大事になったわけだが、先の事件以来腑抜けになったかのようなヒロインをおいて、相棒はヤリで仇とその部下を刺殺してしまうのだ。あり得ることではあるが、ヒロインはこれで完全な傍観者になってしまったのだ。

終幕近く、使命を成し遂げたアボリジニーとヒロインは夜明けの海岸で光に照らされるシーンを迎えるのだが、これからふたりがどういうことになるのか全く予想できない。というか、何か気まずい空気が流れるだけに見えるのは自分がおかしいのだろうか。少なくともカタルシスなどないのは確かだ。これを監督が娯楽作というよりは問題提起の一作として撮ったのは間違いのないところだろうが、仇将校を悪とする女性の闘争の物語だとすればそんな側面は常人には読み取れない。ただ、何だったんだ、という疑問符を観客に残したままの投げっぱなしジャーマンにしか見えなかった。

(評価:★3)

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