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[コメント] 飢餓海峡(1965/日)

この物語のツボは、左幸子伴淳の限りない人間臭さをも食い物にした、三國連太郎の臆病な怪物性に尽きるのではないか。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







取り調べ中の三國が、前言を翻してまで語ったこと…仲間ふたりを殺したのは正当防衛だった、という言葉の真偽は判らない。ただ、手にした金を懸命に増やして人のために尽くす、という目的は本当だったのだろうと考える。何故なら彼は金銭的欲求より名誉欲のほうが強い男だからだ。

実際彼は、妻を絶望的な状況から救って社長夫人にまで成り上がらせ、また会社を立ち上げて、その利潤で故郷や更生施設に並々ならぬ寄付をしている。そこで妻は夫を信頼し、故郷は彼を郷土の英雄扱いにしている。もちろんそれは彼の求めた名誉に繋がることである。

だがここに左幸子が現われる。彼女は恩人に少しでも報いようと、あの一夜のことでどれだけ助かったかを、彼女の素性を包み隠さずして感謝する。おのれ以外の誰をも信じないナルシストである三國にとって、その時左は明確な敵となる。三國はおのれの名を地に墜としめるかもしれない彼女を葬るために、偶然かかわった書生すら犠牲にする。いわば名誉欲の怪物なのだからだ。

ラスト、連絡船から海に向かって花束を投げ、読経する伴淳(彼についてははその東北弁を活かしたコミカルな役を主に観ていたので、シリアスな演技を観られたのは嬉しかった)の傍らから、花を抱いたまま三國が投身自殺するシーンは、まさしく彼にして当然の行為だったことだろう。謝罪や罪滅ぼしの行為にすら名誉が伴うことを求めた彼にとって、不名誉な逮捕よりは死を選ぶだろうことは見えていたのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)けにろん[*] 代参の男[*] 青山実花[*] のの’ セント[*] TOMIMORI[*]

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