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[コメント] 魚と寝る女(2000/韓国)

残酷な女神の愛。その奥底に見えてくるのは、処女神アルテミスの潔癖さと、放埓な美神アフロディテの唯愛主義だ。そして神話に付け加えられた属性は、女神もまた裁かれる人間たちと同様に痛みに我が身を引き裂かれる思いを感じることだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この物語がただのラブストーリーでないことは、最初のシーンからもう散りばめられている怪奇的な罠に窺うことが出来る。ヒロインは湖に浮かぶ家々で魚を釣ったり、娼婦を呼んで水上セックスを楽しんだりする男たちの管理人であるが、実はただの人間ではなく、彼女を娼婦扱いする男を水中から現われて引きずり込もうとしたりする。やり手婆あまがいの仕事についていながら、処女のように潔癖だ。

そんな彼女が、指名手配中の逃亡者たる男を愛する。最初はセックスを拒み、彼のために自分の代わりの娼婦をあてがってやったりするが、やがて身も心も男に捧げる気になる。そうなった彼女は娼婦やその雇い主のように、男にちょっかいをかけたり詰め寄ろうとするもの全てを水中に引きずり込む、ある種の妖異だ。何も語らぬがゆえに、その女神の威厳を保ったままで。だが、彼女は同時に血肉を持つ女だ。刑事に追われた男が、自ら咽喉に釣り針を差し込んで水中で助けを待ったように、彼女は女性器に釣り針を刺して逃げる男を引き止めようとする。その時の彼女は、「痛み」に声を上げる。

この映画は執拗に痛みのシーンが繰り返される。もう止めてくれ、と言いたくなるほどに魚やカエルは切り刻まれ、あるいは引きちぎられる。しかし、それはこの映画が持つせつなさの暗喩だ。血と痛みのあとに救済は約束されるのだ…それゆえに、世界的監督となったキム・ギドクが、『受取人不明』で海外市場に出たのちの批判を逃れるために、そのモティーフを手放さざるを得なくなったことは非常に悔やまれる。

最後に女神は恋人を矮小化し、自らの性器の中へと逃げ場所を作ってやるのだが、同じモティーフを使ったアルモドバル監督とは違った、追われるもの、弱いものへのあえかな愛情が感じ取れるラストは、猥雑でありながら監督の優しさが汲み取れるエンディングとして出色である。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)irodori[*]

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