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[コメント] 死ぬまでにしたい10のこと(2003/カナダ=スペイン)

アンの望みは贅沢に過ぎたかもしれないし、その総てを叶えることには幸運の手助けが大いに必要とされたことだったろう。だが、それが総ての愛するものに死のかなしみを与えるまえに打つ手であることを考えれば、許されるべき贅沢と言ってよい筈だ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アンは家族をこの上なく愛している。そしてかれらから必要とされている。だが、その重荷を17歳にして担がされ、ろくに青春を楽しむこともなく暮らした数年間を思えば、彼女の死ぬまえの望みに「夫以外の恋人をつくる」の項があっても当然とは言えまいか。

彼女はしたたかで、死の宣告をなされた時にも己を見失うことはなかった。それは弱くては生き残ってゆけない、あまりに重い人生を担がされたものの当然の在り様だ。だからこそ…。

「我なきあとの我が人生」

…を彼女は用意する。子供たちへの助言、母や夫へのメッセージ、そして、「少しばかり遊んで捨てた」と思われても仕方がなかった、別れた恋人への真実の言葉を録音する彼女。こうして、彼女は彼女をめぐる総ての人々を癒す言葉を遺すことによって、はじめて死の床に沈むことができる。

この映画の劇伴は非常に淡々として穏やかであり、一歩間違えば彼女の人生を愛に不自由しなかった、恵まれたものであるかのように彩っている。だが、ちょっと違う。彼女はやれる限りのことをやっているのだ。彼女の人生の終わりを一大悲劇にしないためのことを…。だから、エンディングを聴きながら自分は涙腺を緩まされることはなかった。むしろこの若さで死んでゆく彼女の、一分たりとも無駄にしない人生の「使い方」に拍手したくさえなった。母、子、夫、友人、そして恋人。そのどれとしても一切誰をも裏切らなかった彼女。そのパワーは羨ましく、人生を自分のものとして生きたプライドには敬意を抱く。

(評価:★5)

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