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[コメント] アラビアン・ナイト(2000/米)

「アラジンと魔法のランプ」にアラジンって何国人? から始まり、物語「アラビアンナイト」の成立について。
KEI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







以下、浅薄な私見もあり専門の方は読まないで下さい。素人さん大歓迎コメントです。

まず、アラジンって何国人?から始める。当然アラビア人だと思っていたが、この作品では何と弁髪で登場!舞台もサマルカンド(中央アジアの古都)になっていた。 が、原作(全訳千夜一夜物語バートン版 中央公論社)に当たってみると、「昔、支那(シナ=中国)のある城市に〜」とある。サマルカンドではなく中国という事で、アラジンは中国人だったのだ。 更に読み進めると、その城市は「アルカーラス」と記述されている。 中国の都市でアルカーラス、その住人がアラジン・・・名前が中国っぽくない・・・どうも変だと他の訳書(東洋文庫アラビアンナイト 平凡社、マルドリュス版千一夜物語 筑摩書房)を当たってみると次のことが分かってきた。

「アラビアンナイト」は6世紀には既にその原型があったらしく、10世紀にはもうちゃんとした形になっていたらしいが、元々は作者の定められない民間伝承の民話集であり、原典もカルカッタ版、ハビヒト版、マクトラン版・・・と数多くあり、更に訳本(英仏他)でも上記のバートン版、マルドリュス版の他ガラン版、ペイン版・・・(東洋文庫はアラビヤ原典からの直訳本)とこれも又数多くある。 思うに(私見ですが)書写者、転写者、訳者によって興趣の赴くままに若干なりとも原文を色々変えていったのではないか。だからこれ程多くの版が出て来たのではないかと思う。

今回調べてみて一番びっくりしたのは、この有名な「アラジンと魔法のランプ」、そして「アリババと40人の盗賊」の二つが、数多くある原典の中に入っていないという事!じゃぁ、何なんだというと、18世紀初の仏学者ガランが古い民話であったこの2話を仏訳する時に挿入したらしい(平凡社百科事典 同項目前嶋信次さんの解説)。何と!

先程も言ったが、色々な人がその手に伝わってきた時にもっと面白いものに変えていった。これが物語「アラビアンナイト」の成立ではないかと思う。

この映画作品でとても良かったのはそのSFXだが、更に言うと、ランプの精―ではなく原作によると「ランプの魔物」―の造形が一番良かった。原作では「天井迄届く魔物」或いは「雲をつく巨人」となっているが、この作品では本当に異形な巨人を映像に生み出しており、これもまた物語「アラビアンナイト」の現代におけるその成立といえるのではないか。映画はSFXという武器を使って物語「アラビアンナイト」をもっともっと面白く出来るのではないかと思う。

(評価:★4)

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