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[コメント] 世界(2004/中国=日=仏)

閉塞感を打ち破るもの。
KEI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は急成長する中国にあって、30歳台半ばの男と女の閉塞感を描いている。

しかし、この閉塞感というのは、どんな時代の誰にでもあるものではないだろうか、とふと思った。

まず、この主人公たちを見てみよう。

2人は若い頃田舎から出て来て、この世界公園で一生懸命働いて来たのだろう。お互い30歳台半ばになって、そこそこの社会的地位も得て金にも困らない境遇になった。世界公園は2人にとって、まさに世界そのものだ。そこから出て行くことは考えられない。しかし、これ以上、どうしたらいいのだろう。これが2人の閉塞感だ。‘世界’の中に閉じ込められてどうしようもないのだ。

誰でもが、どこへでも行ける、どこででも生きられる、と思っている。が、生活の基盤が出来てしまったら、その場所以外では暮らしていけない。逆に言えば、その場所、その世界に閉じ込められているといえる。

しかしマリアの場合を見てみよう。

マリアは元々流れのダンサーではない。ブローカーが、パスポートを預かるから寄こせと言った時、彼女は嫌とはっきり言っていることからそれが分かる。ブローカーがパスポートを預かり、彼女らが逃げないようにするというのは当たり前のことだ。ブローカーは、そして色々難くせをつけて、ピンハネ率を上げるのだ。それに逆らおうものなら、飛んでくるのは暴力。ベルトのムチだ。それが、マリアの背中の傷跡だ。

マリアは旦那がいなくて(?)子供が二人。今はロシアの母親にでも預けているのだろう。詳細は不明だが、ウランバートルに住んでいる妹に会いに行くという夢を持っている。その金を貯める為、中国まで来てダンサーをやっているわけだ。しかし、上記のようにブローカーは約束した金を払ってくれない。

そこからがマリアのスゴいところだが、金の為に職を変えるのだ。何も分からない中国で職を変える。しかも金が必要となれば、どんな職かは決まってくる。マリアは覚悟して前へ進むのだ。強い気持ちで、意志の力で夢に向かうのだ。

そして、やがて、マリアはウランバートル行きの飛行機に搭乗する。夢を実現したのだ。その後、妹に会った後はどうするのだろう?当然母に預けた子供たちの所へ帰るのだ。強い意志を持った彼女には、今後も閉塞感はないだろう。

一方、夢を実現して閉塞感に陥った主人公たちに、作者は何を用意したか。

それは、練炭事故で死にかける、というものだった。(この唐突なラストをどうみるかという問題もあるのだが)。ラストのセリフ、男「俺たちは今後どうなるのだろう」女「ここから新しく始まるのよ」。この事故がキッカケで2人はふっきれ、やがて結婚という新しい道を進み始めるのだろう。

しかし、私が目を付けたいのは、この事故になった経緯だ。浮気をしようとした男に女は腹を立て、一室に閉じこもる。そこへ男が来て・・・というストーリーだ。元々は女の強い気持ち‘この男と結婚したい’から始まっているのだ。

マリアの所で触れたが、強い気持ち・意志があれば、閉塞感は生まれない。しかしもし閉塞感にとらわれてしまったら、これを打ち破るキッカケとなるのはやはり強い気持ち・意志なのだろう、と思う。

(評価:★5)

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