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[コメント] ウィンダミア夫人の扇(1925/米)

無声ながら、いや無声だからこそ、画が適確に物語を描いている。ルビッチがその実力を示した傑作。原作は未読だが、たぶん原作よりもいいと思う。
KEI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公はアーリン夫人だ。彼女はどんな人生を送って来たのだろう。「私も昔、あなたと同じことをして・・・」という下りがある。

・・・彼女は結婚してマーガレットを生み、まだ小さい時に男と駆け落ちしたのか?はたまた生まれる前に・・・といろいろ考えられるが、道を踏み外した恥ずべき母であることには変わりない。マーガレットの物心がつくと、母親は死んだということにしたのであろう。

その後アーリンはどんな生活をしたのか?現在と違って、女には自活の道(職業)が無い時代のこと。彼女はパトロンを作って、収入を得ていたのだろう。元々駆け落ちするくらいの女だ。自分に自信もあっただろう。パトロンを変え、サロンを渡り歩いて楽しく暮らしていたのだろう。そしてある日、自分の老いに気付く。周りには男も誰もいなかった。金もなかった。娘に会いたかった。

ここからこの物語が始まるのである。

彼女はオーガスタス(Augustus:字幕では何故かロートンになっている)卿と婚約する。これは若い娘の単なる婚約ではなかった。路頭に迷う一歩手前の文字通りの、命の綱だったのだ。

しかしながら、あの時、意を決して扉を開けた彼女の心の中にはそんな事はみじんもなかったであろう。娘を救いたい、その一心だったのだ。その心が観客に分かるからこそ、このシーンは圧倒的な緊迫感を持って迫って来る。これ程息をのむシーンは、他には無い。

蛇足だが、このシーンでもルビッチの実力が伺える。背の高い扉が開いて、たっぷり5秒間。まだ出て来ない。そして影が映って、おもむろにゆっくりと・・・。殊更扉を高くしたのは、その影を効果的に見せる為だろう。

・・・扉の外へ出ると、オーガスタスと目が合った。弁解するにはもう遅い。泣くわけにもいかない。笑う訳にもいかない。このすべてが混ざり合った表情は、本当に見るに忍びない。私は思わず目を伏せた。

その日、家に帰ってアーリンは、がっくりしただろうね。でも、でも仕方ないかと思い直したに違いない。元々強い女なのだ。

ラストが軽妙だ。たまたまウィンダミア邸に来たオーガスタスに彼女が言うセリフがふるっている。「婚約は破棄よ。私に恥をかかせたのだから。」彼は言いたかったに違いない「昨日の事は君が悪い。俺としては・・・」と。が、先手必勝。そのまま彼女は去ろうとする。彼は何も言えない、引き留めるのが先決だ。このあたりに2人の性格設定が見事に生きている。サロンを渡り歩いてきた百戦錬磨の女と、家柄の良いぼーっとした人の好い男。この2人はよく合う。いい夫婦になれるだろう。

このラスト、原作は知らないが、アーリンが余りにも可哀想なので、作者としては情けを掛けたのだろうと思う。私もそうして欲しいと思っていた。

(評価:★5)

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