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[コメント] ゼロ・ダーク・サーティ(2012/米)

‘〜based on first hand accounts of〜(この映画は直接聞き取りした証言をベースにした)'とロールにあるが、そのベースの上に創作したんだよ、という意味だろう。そして、本作は実によく計算された娯楽作品だと思う。
KEI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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まず、主人公を女にしたのが、成功(?)の要因だろう。男にしていれば、全編普通のCIAのスパイものだった。女にしたことによって、男社会での女というもう一つの別の物語を語ることが出来た。

拷問シーンはスパイものにはよくあるが、女が立ち合う拷問シーンだ。両手を抱えながらおずおずと見ている主人公が印象深い。

脇道にそれるが、そんな女がいつしか‘I'm the motherfucker(=見下げ果てたやつ、くそったれ)’と女ながら言う迄になる。幾つもの主演女優賞は納得出来るものだ。

もう1つ印象的なシーンは、CIA長官(ジェームズ・ガンドルフィーニ)とカフェでテーブルを挟んで会話するシーンだ。体の大きな長官と小さな彼女。一般的に男の方が体が大きい。昔つき合っていた彼女が小柄で、混雑している街中とか電車の中で男の人に囲まれるとちょっと怖い感じがすると言っていたのを思い出した。主人公の‘女’を強調する為に、体の大きな男をキャスティングし、このシーンでは殊更体を大きく撮っているように映った。

ハイライトの襲撃シーン。それまでのドラマっぽさは消えて、実にリアル。しかしここでも計算が入っている。このシーン迄ほぼ2時間の間 BGMは控えめで、通常音量の1/2か1/3だ。試写会で監督が叫んだのかもしれない「現実感を出すの。もっと音を絞って!」(これは全くの想像です)。しかし、この‘突入シーン’から19分間は、更に、BGMはすべて消えるのだ。現実音の会話、爆破音、犬の声、牛の声(この辺りがリアルというか、見事な計算というか)のみになる。(アカデミー賞では、音響効果賞のみを受賞した。)

また脇道にそれるが、私としては音楽の作曲(アレクサンドル・デプラ)が良かった。控え目音量をモノともせず、しっかりとした主題(旋律)を持ち、その展開(編曲)が見事だった。もっとも調べてみると、作曲賞を取ったのはシカゴ批評家協会賞だけだったが。

ラストシーンの‘涙’だが、私としては、女はよく泣く(特に物事の終了時には。―異論があるかもしれないが)ので、単に‘女’を強調したいが為に泣かせたのだと思う。男だったら、あそこで泣かせはしないだろう。女の涙は画になる。これも計算だろう。

以上まとめると、本作はしたたかな女性監督(当時60歳)が実話をベースに創り上げた、よく計算されている娯楽作といえる。

(評価:★4)

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