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[コメント] 放浪記(1962/日)

オープニングの警察署のシーンは、林芙美子の傑作短編「風琴と魚の町」のラストだ。これを最初に置いたという事で、この映画は「放浪記」の映画化というよりは、彼女の半生を描いた、という事が分かる。
KEI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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原作を昔読んだ時に思ったのは、芙美子像(どんな女なんだ)が捉え難いという事だった。今回映像になり、彼女が被写体になって、それがよく判った。すなわち、上目使い、ダラッとした風体、それでいて、きかん気のある女だ。実際にそんな感じの女だったのだろう。或いは、演出の上手さか。

読後感でもう1つは、とにかく「貧しい々、金がない々」とそればかり言っている印象だ。

劇中伊藤雄之助が言う、「ごみ溜めをかき回して、並べて見せている。貧しい々と貧しさを売り物にしている。」そしてその後、別れた夫の宝田明が、「並べて見せたものは、真実だ」と喝破する下りが有る。 私は伊藤の‘売り物’という表現に同調したが、宝田の言を聞いて、反省。後で分かったが、伊藤役の人物は実在の銀行家の息子だ。私は、更に反省。金持ちでもないのに、まだまだ甘いなと。

実はこの映画のホンは菊田一夫の舞台脚本(あの森光子の主役上演回数2017回の日本記録を持つ舞台のホン)を基にしている。うがった見方をすれば、菊田も原作を読んで―貧しい々、ばっかりだな―と思ったのではないか。そこで、こんな物語の流れにしたのではないか、と思う。

1つのシーンがある。芙美子が女給(今のホステス)をしているカフェーに、作家仲間が訪ねて来るのだ。ちゃんとした身なりの女作家たちに比べ、芙美子は女給のエプロン姿。みじめでもあっただろうが、彼女は負けない。

そんな負けない林芙美子作品を、もう1度読んでみようと思う。

音楽について。歌謡作曲家で著名な古関裕而が担当している。人口に膾炙した、時代の名曲を何曲か採用している。たて笛での「桜井の訣別 ♪青葉繁れる桜井の〜(明治32年)」、ギターのトレモロで「ゴンドラの唄 ♪命短し恋せよ乙女〜(大正4年)」、同じくトレモロで「籠の鳥 ♪逢いたさ見たさに〜(大正11年)」等がシーンを引き立て、素晴しい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)3819695[*] ぽんしゅう[*]

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