[コメント] 戦争と平和(1968/露)
映画を見終った人むけのレビューです。
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映画の持つ特色―映像、音楽を見事に生かしている。アウステルリッツの戦い、大舞踏会、ボロジノ戦、モスクワ退去・炎上という見せ場は、現実を再現したようで、圧巻だ。
そして音楽。原作では、ただ数語の歌詞のみの歌を、一曲丸々作っている。これが数曲あるのだ。やはり見て、耳で聞こえると、印象深さが違う。(仮小屋のシーン他)。
6割カットしたのは、当然時間的制約もあろうが、別の意味―例えば格調高くする為だったのではないか?それは、人間の低い品性(妬み、恨み、不道徳etc)とか、惚れた腫れたの恋愛描写は極力カットしているからだ。さすがにナターシャの不倫事件は入れざるを得なかったが、そういう人間らしいものは、原作ではたっぷりあるのだ。そもそも、原作のオープニングは、破廉恥なワシーリー公爵家(娘がピエールの妻になるエレン)の紹介から始まる。そういう描写をカットしたorせざるを得なかった(?)のは、残念なことだ。
トルストイは元々はデカブリストの乱(1925年:皇帝の専制政治に反対した)を書くつもりだったらしい。そして、党員たちを調べて行くと、ナポレオン戦争(1812年)に遡った。つまり、戦に従軍した人々が欧州の自由文明に触れ、十数年後に乱を起こしたという事が分かったのだ。しかし興味は段々と、ナポレオン戦争とその時代に移って行き、結果、1805〜1814年の物語(映画も同じ)となった。
この将来党員になる人々のイメージとして、ピエールを登場させているのだ。映画のテーマ「悪に対する善の団結」はピエールのセリフそのままだ。
原作では多くの登場人物(559人―ちなみに映画では 595、193人[資料による])がおり、各々が自分の人生の片鱗をしっかり見せてくれる。私は原作を読んでいて、ピエールが主人公という気がしなかった。主人公が一杯いる物語という感じだった。
映画はその中でピエールだけに焦点を当てて、話を進めている。
また原作ではトルストイ史観、戦争他諸々の事象に対する考察(これがまた長いし、私自身よく理解できないものもあった)があり、重厚さを持っている。原作とは比ぶべくもないが、映画は原作の入門編とはいえる。
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