[コメント] それでもボクはやってない(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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例えば、当初は痴漢容疑者の弁護を降りようとした瀬戸朝香の葛藤だったり、主人公と元カノ鈴木蘭々との複雑な心理関係であったり、光石研の善意と裏腹の胡散臭さだったり、”傍聴オタク”とのトラブルだったり…通常の映画の話法であればこういうところを巧くいじっていわゆる「サイドストーリー」ってやつを形作ることで、映画に幅と深みを生み出そうとするわけです。ところが、この映画はそんなことには脇目も振らない。手を広げたら主張すべき主題がボケてしまう。それを避けるがためにあらゆる「掘り下げどころ」を潔く捨象していく。これはこの映画の極めて特徴的なところだと思う。
それにしても主人公加瀬亮の造形は絶妙。要領の悪さ、というよりもコミュニケーションへの不慣れさ、と云った方がぴったりくるかな。意思疎通の取りづらい相手と無理してコミュニケートすることを避けても生きてゆける環境で過ごしてきた…という人物像が数々の細かい演出で言わずもがな伝わってくる。或いは、拘留された彼がイの一番に連絡する相手である友人山本耕史にしても、もたいまさこに「あぁニートなのね…」と言われても一瞬何を言われてるのか理解できなかったり、法廷の傍聴席に座って注意されてまるで生まれて初めて世の中には帽子を取るべき場所があることを知ったかのような態度をとったり。そんな彼らが突如コミュニケーションどころか一切の価値観の共有が不全な状況に有無を言わせず放り込まれるわけです。そこで生じる絶望的な困惑…その困惑が観ている我々にも強烈に伝わるからこそ、この映画には力が生まれるわけですね。
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