知識を持たない不思議な存在であるところの「心を持ってしまった人形」が特段のコンフリクトもなく現実世界に受け容れられてしまう御伽話めいた基調に、性欲処理の生々しさが暴力的に介入してくる構成的ミスマッチ感が絶妙。そこに説得力をもたらすペ・ドゥナというキャスティングの奇跡。ビデオ屋での事故で空気が抜けてしまう場面の切なさは堪らないものがある。

人間も人形も中身は空っぽで燃えるゴミか燃えないゴミかの違いくらいしかない、という感性は、周辺人物の造形が類型的なことも含め、ストレートな一方やや凡庸な気もする。板尾が職場で叱責され「おまえの代わりなんていくらでもいる」と言い放たれる場面があったが、そのへんをもう一段踏み込んで掘り下げてもらいたかった物足りなさが残る。