コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] インファナル・アフェア(2002/香港)

香港映画背水の陣に、トニー・レオンとアンディ・ラウを主演に据えた製作陣の意気込みは買います。しかし、この映画はせっかくのお膳立てを生かしきれていないように思えるのです。[★3.5](04.02.18@千里セルシーシアター)
movableinferno

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画の物足りない部分はアンディ・ラウ演じるラウのキャラクターの描写不足にあるように思う。ラウがボスを裏切り、ヤンを殺した兄弟分を射殺し、改めて警察という組織に身を殉じようとする、その行為を裏打ちする心情がいまひとつ伝わってこないのだ。

確かに権力も名声も徐々に手に入れ、恋人との結婚も決まり、更にその先の道も開けて見えれば、日の当たる道から逸れて行くことが惜しくなりもするだろう。しかし、彼は既に警察という権力機構にしっかりと食い込み根を張っているのだから、裏社会と国家権力の双方を呑み込み牛耳る支配者となる道もあるわけで、ハードボイルド的な視点から見れば、むしろそうなる方が自然にすら思える。(実際わたしは、ラウがボスを殺した段階では、そういう展開になるものだとばかり思っていた。)とは言え、18で組員になってそこそこで警察学校に放りこまれ、その後10年も警察機構に属していれば、いくらスパイとは言え、頭も心も幾分かは染められるだろう。しかしラウにそちらの道を選ばせ、観客にそれを必然と感じさせるには、まだエピソードなり描写なりが足りないように思う。人間が損得を超えた行動を取るのは、信条、もしくは情念に突き動かされたときではないだろうか。ならば、例えばラウにとってボスが信ずるに値しないものになる瞬間、であるとか、例えば「ヤンにとってのキョンの死」に対応するような警察組織の人間との情の繋がりであるとか、そういうものが、なにかもうひとつ加えられていたら、この映画はもっとずっと血の通ったものになったのではないかと思う。

あと、キャラクターの描き込みについてはヤンの方に比重が寄りがちになっており、その点トニー・レオンの方が得をしているのは確かなのだが(先にも書いたキョンの死のエピソードとか、別れた恋人との間に娘がいるが彼自身はそのことを知らない、とか、ウォン警視との絆、またその死のシークエンスとか、感情的な見せ場はほとんどヤンの方に割り振られているといっていい。)ぶっちゃけアンディ・ラウの顔というのはどうにも「熱血正義顔」なので、徹頭徹尾、一警官にしか見えなかったりもして…。アンディには悪いが、これがレスリーだったら…とかミもフタもないことを思ったりもした。(トニーとアンディが逆でもよかったんじゃないだろうか…)

と、言うよりもむしろわたしは(上に書いたように)ボスを殺し権力をも手中に収め、巨悪として香港の闇に屹立するラウを見たかった。そのラウと、後ろ盾を全て失ってたったひとりうち捨てられたヤンが対峙する姿を見たかった、と今思う。そこで「熱血正義漢」の顔を捨てて酷薄なる悪の凄みを体現するアンディ・ラウを見ることが出来たら、これはもう設定に対して年取り過ぎであることにも目を瞑ってトニー・レオンとアンディ・ラウという香港二大影帝を主演に据えたことの値千金と言えたでしょう。そこに善の勝利でも悪の勝利でもない、真に「無間道」と呼ぶにふさわしい結末が用意されていたならば…と欲を言えばキリがないのは承知ですが、それだけのポテンシャルを備えた企画であった、とわたしは思うのです。それだけに、非常に残念でした。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (10 人)Orpheus ことは[*] アブサン t3b[*] 林田乃丞 カルヤ[*] おーい粗茶[*] べーたん けにろん[*] リア[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。