下品ですんません。

まずはジョゼというキャラクターがイイ。ごみ捨て場から拾ってきた本の山に囲まれて家から一歩も出ずに耳年増になってしまった女の子。そして好きな本はサガン。うーん、ガーリー。でもサガンをこじつけ過ぎないところも控えめでイイ。お料理上手。彼女の料理の旨さにマイッてジョゼの元に足繁く通うツネオ、という図に『赤い薔薇ソースの伝説』を連想した。ぶっきらぼうなしゃべりは「ちょっと不思議ちゃん入ってねえかおい」と思ったけれど、池脇千鶴がやるとギリギリセーフになる。この絶妙の匙加減よ。「なんやあの雲持って帰りたいわ」というセリフと言い方は大ヒットだ。

池脇千鶴の濃厚なラブシーンの相手役には、妻夫木聡、しかありえない。だってもっと年齢も顔も大人な人だとこの映画におけるラブシーンの意味が違ったものになってしまうから。もうそれだけでも、ブッキー、お勤めご苦労様、と言ってあげて良いのだが、驚いたことにツネオというキャラクターと妻夫木聡という俳優の化学反応はすばらしいものだった。ツネオ＝ブッキーは、すがすがしいほどに（こんな言葉使うの恥ずかしいけど）“等身大”の男の子だった。犬童一心はブッキーという旬の素材を他の誰よりも見事に生かし切ったわけである。

ツネオは顔も要領もいいからモテる。スケベだからそのチャンスはきっちりいただく。そうやって育ってきた人間が持つ優しさと残酷さを相応に兼ね備えている。そういうツネオだから、ジョゼを外の世界に連れ出せた。そして彼女を背負いきれなくて逃げ出すのだ。ジョゼを背負うことばかり考えて、その想像の重みに押しつぶされそうになったツネオは、別れてはじめて自分がジョゼを背負っていただけではなく、自分もジョゼに背負われていた（惚れて惚れられたということは、そういうことだ）ことに気付いて泣くのだ。いや、もしかしたら気付いてはいないかもしれない。それはそれでかまわない。ツネオはジョゼを音も光もない海底から連れ出したのだからそれで充分だ。よっ、この、あげちん！人魚姫は泡になって消えるがジョゼは泡になって消えたりはしないから、ツネオが一生おんぶしていなくちゃいけないなんてことはないのさ。ほら、見てみなって電動車椅子に乗って買い物をするジョゼの姿の清々しいこと。本の山に囲まれているよりも、ジョゼにはそういう暮らしの方がずっと似合ってる。

そんなふうに、映画のキモがしっかりしているから、小ネタの面白さも増幅する。なんか、映画を観ててこんなに本気で笑ったのは久しぶりかも、というくらい、ツボ。あの、引越しにね、金井晴樹が手伝いに来るとこなんて、吹いちゃったもん。「プーッ」て。ちょっと恥ずかしかったよ。あと荒川良々の「絶版！」とか、ちーちゃんの「…殺す気か」とか、新井浩文とのやり取りとか。それと！ラブホテルがちゃんとイヤらしくうさんくさかったこと。これ重要。『GO』とは大違い！それにしても、ねっとりとしたラブシーン、観ていて居心地が悪くなるのは、それほどリアルだということでしょうか、それともやっぱり演じる二人のベビーフェイスゆえでしょうか。（04.05.06＠梅田ガーデンシネマ）