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[コメント] ライトスタッフ(1983/米)

この長さ。鈍重と言ってしまいたくなるほどゆったりとした映画のリズム。しかしそれこそが、加えてサム・シェパードのキャラクター造形が、映画に神話性すら与えている。
movableinferno

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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よく知らずに観てびっくりした。飛行機乗りイェーガーの話かと思ったら、物語は彼を置いて、デニス・クェイドと仲間たちで宇宙に飛び出して行ってしまう。彼らの間に接点はほとんどない。宇宙を目指す空軍パイロット三人組とイェーガーは会話すらしていない!しかし、接点薄く、互いをアイコンのように意識し合っているところにこそ、ロマンがありサーガがある。

お金にも出世にも、誰よりも速く高く空を飛ぶこと以外の何事にも頓着しないイェーガーと、彼以上に誇り高いグレニスは、荒野で馬を駆る神話の世界の住人だ。神話の英雄が「猿にも出来る仕事」と足蹴にした宇宙飛行士の座に食らいついた志願者たちは、エリート然としたエド・ハリスに至るまでがそれぞれに人間臭く足掻く。人間臭い彼らがキラ星のごとく世間に持て囃され、英雄は荒野に取り残され星空を見上げる。映画は宇宙飛行士たちの苦闘に寄り添うことにたっぷりと時間を割き、時折思い出したかのように荒野の英雄に目を向ける。そうして、どれだけ長くなろうと気にも留めていないかのように、歩みを速めることなくエピソードを重ねて行く。

そして、ランタイム180分あたり、「猿にも出来る仕事」という自分の言葉を打ち消して宇宙飛行士たちへの敬意を示し、自分自身の勝負に打って出るイェーガーと、いよいよ自身の宇宙飛行を目前にしてイェーガーに思いを馳せるゴードンの姿のオーバーラップ。ここには、愚直な手かもしれないが180分かけて丁寧に描写を積み重ねてきたことによるカタルシスが確かにある。この長尺は無駄だとは思わない。贅沢な長さだ。そして、旧い英雄を死で飾るような退廃に淫しないところがとても美しいと思う。(まあ実話なんだけど)

しかしみんないい顔ですね。サム・シェパードのやや現実離れした存在感。「アメリカの良心」を体現するエド・ハリス。ちょっと掠れたようなスコット・グレンの侘び寂び感。なによりピッチピチに活きの良い跳ねっ返りのアメリカンボーイ、デニス・クェイドの弾ける笑顔よ。このときのデニス・クェイドはトム・クルーズの遙か上を行く、まさに天空を往く白馬だねえ。(11.10.17@TOHOシネマズ梅田)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ ナム太郎

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