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[コメント] セックスと嘘とビデオテープ(1989/米)

コミュニケーションの成立と不成立の対比を、夫婦や姉妹、同窓生といった構図、ビデオテープというツールを使って浮き彫りにしている。絵画や写真ではなく、彫像や塑像のように実体と感触をともなった感触。それは、闇の中で手を伸ばせばすぐそこにある。
かける

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画を見て「これは何? わからない」と思えた人は幸せかもしれない。しかし、この映画にリアリティを感じてしまった人にとっては、まさに二日酔いか生理痛でもあるかのような、なんとも重く、暗く、のしかかってくるものがあったのではないだろうか。

不倫や、パートナーを寝取った(寝取られた)経験の有無といったディテールは、その「重さ」と直接の関係は無い。でも、なんらかのディスコミュニケーションによって起こりうる「人と人との疎外」が、その核だと思う。 それを人の業だと言いきるつもりはないが、社会的動物であることによって引き起こされる、様々なことのマイナス部分(ダークフォース?)の象徴、とは言えるかもしれない。

不器用な生き方や、やりきれない出来事をあれだけくり返し、消耗していたにしても、グレアム(ジェームズ・スペイダー)とアン(アンディ・マクダウェル)が、安息を手に入れたことは幸いだった。大事なことは、それが維持できるかどうかではなく、そこにたどり着けたことなのだから。

余談:日本と欧米での社会慣習による差異

相手と接触(握手やハグ)した上で、目を見ながらではなければ会話ができない欧米人(その是非はさておき)にとって、「ビデオカメラのファインダーを通してしか他者としか関われない」その上「再生画像の女性しか性愛の対象にできない」グレアムというのは、相当の変人、というか”異常者”に見えてしまうはず。もちろん、日本人であったとしても、かなり”キテいる”存在なわけだけれど、視線を交わさずとも会話が成立する文化習慣を持っていることで、彼の病理が多少は薄められてしまうかもしれない。「今日のおすすめ」だったはずが、大平洋を渡ってくる途中で「カフェアメリカーノ」になってしまうのだ。

さらに言うと、日本のようにポルノグラフィーが「AV」などと称されポピュラーになっている社会は、国際的には異端なので、「カメラ持ってインタビューするなんてAVみたい」とか「ブルセラのハメ撮りビデオみたいだ」のような感想を一般の老若男女が持つことは、欧米ではなかったはず。そういう意味においては、ある種真っ当と言える社会ではグレアムの病理(あるいは疲弊)がシンパシーを持たれ、コンビニで成人雑誌が買える猥雑な社会では、彼は理解されにくい……というネジレの構造があったのかもしれない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)sawa:38[*] けにろん[*] m[*] mize[*] ina

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