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[コメント] 雁(1966/日)

豊田四郎高峰秀子版(1953年版)を見た後に原作を読み返し、本作、池広一夫若尾文子版も気になって見た。ちょっと無粋な行為かと思いながらも、こゝでは、豊田版との比較を中心に記述してみる。
ゑぎ

 まず、本作も飴細工のカットから始まる。妾を口入れする婆さんは、武智豊子(この当時は武知杜代子)。この人もこういう役はなかなか上手い。脚本は前作と同じ成沢昌茂なので、特に前半は、豊田版とほとんど同じだ。全く同じ台本を使っているのか?と思いながら見た。ただし、勿論、個々のカットの良し悪しはあり、例えば本作で、若尾文子の父親が飴屋の荷物を背負って坂道(階段)を降りて来る仰角カットなんかは目に留まった。

 妾宅の女中は姿美千子。前作の小田切みきと異なり、普通に綺麗だし、随分としっかりしている印象だ。

 主演の若尾文子、高利貸し末造・小沢栄太郎、東大生の岡田・山本學といった主要キャストは前作と遜色のない造型だが、決定的に見劣りがするのは、美術装置だろう。特に無縁坂のセットが貧弱だ。若尾と同じ派手な傘を持った小沢の妻(山岡久乃)とすれ違うシーンなんかで、その貧弱さがはっきりする。前作・豊田版の美術は伊藤憙朔木村威夫だったのだ。

 また、若尾が胸や首に白粉を塗る場面が本作にもあるが、高峰版のような濃密な見せ方はせず、あっさりとスルーしてしまうのだ(多分、こゝは真似をしたくなかったのだろう)。

 後半になると、前作からの明らかな改変部分がちらほらと目に付き始める。まずは、山本とその友人の井川比佐志が、下宿でイプセンの「人形の家」の話をする場面。これは豊田版でも原作にも無かった、本作の追加部分だと思う。あるいは、本作も、無縁坂の妾宅の玄関扉に取り付けた、鈴の音が印象的に使われているが、ラスト近く、山本を追う若尾のカットと、団扇太鼓を叩く僧侶の集団とがクロスカッティングされる、といった音の演出が付け加えられている。

 そして、決定的だと思うのが、ラストの扱いだ。前作では不忍池の雁が飛び立つのを、じっと見る高峰のカットでエンドであり、ある種の前向きな希望のようなものを感じさせる終わり方だったのに比べ、若尾のラストは、かなり突き放した終わり方に感じられる。私の好みで云えば、エンディングは本作の方が感慨深いし、カッコいい。

(評価:★3)

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