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[コメント] ロケーション(1984/日)

これも恐るべき傑作だ。アヴァンタイトルは浜辺の撮影風景。波際を走るスリップ姿の女。このワンカット目から瞠目だ。映画が走り出す、とはこのことだ。
ゑぎ

 主人公の西田敏行はカメラマン。彼の住居は豆腐屋の2階なのだが、トイレと風呂(バスタブとシャワーがむき出しで備え付けられている)は隣の部屋にあり、共同で使うということか。面白い!隣の部屋の住人は大楠道代。1階の豆腐屋は愛川欽也根岸明美がやっている。朝早い商売の設定もよく活かされている。

 また、西田と大楠に柄本明が加わって三角関係を形成するのだが、三人は高校の同級生という設定で、高校時代の三人が火鉢を囲んでいる回想シーンが唐突に挿入されたりする。西田は、大楠のおさげ髪を、なぜか火鉢の中に入れてかき混ぜるのだ。この意味不明さ!

 前半の特記すべきは、矢張り、風呂屋での撮影シーケンスだろう。怖い女将さんは乙羽信子。こゝで、美保純が全裸で横臥し登場する。本作の美保純は素晴らしい。撮影シーンでは女優としてEVE(イヴ)も頑張っているが(角野卓造の前張り姿も!)、夜の街を全裸で走る美保純にはかなわない。

 風呂屋の場面の後、プロットは急展開し、福島へ向かうロードムービーとなる。本作の自動車を使った演出のスピード感も銘記すべきだろう。これもまた森崎東らしさなのだ。自動車が凄い泥濘を進むシーンが挿まれるなんて、なんというサービス精神。すぐさま、西部劇のキャトルドライブの場面を想起するではないか。

 福島原発。いわき湯本温泉。旧常磐ハワイアンセンター。回転櫓盆踊り大会。三函座跡。福島のシーンから、さらに調子が良くなるが、ことに、浜辺の小屋の場面からが凄い。全く常軌を逸した展開、常軌を逸した演出だ。小屋から崖上に上るシーンの斜面の見せ方も、岸壁から眼下の海を見せる俯瞰カットも、映画の感情(登場人物と観客の感情のシンクロと云ってもいい)を最大限に昂進させるのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] 寒山拾得[*]

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